26-5 黄泉比良坂
「創様、自爆フラグ?」
「やっていそうだよね?」
可能性の話をすると、周囲から物凄く残念な人を見る目で見られた。
まるで、俺が言ったからそんなことをされている、そんな雰囲気である。
しかし、それを言った・言わないに関わらず、もしもカードクリエイターの補食封印をしているなら、何年も前からされているはずで。
「それがお約束です、旦那様」
「ご主人様。申し訳ありません、手遅れです」
実際にカードクリエイターを補食封印をしていなかったときは覚えていろよ、お前ら。
目撃情報から、巫女の目的地を割り出した。
行き先は、出雲の国だと推測された。
「隠岐の島ではないよな。本州だと思うけど。まさかと思うけど、黄泉比良坂か?」
「どの辺り……ああ、確かに範囲内ですね」
最後の目撃情報から巫女の行動範囲を予測するが、それでも1日で50㎞移動するなら、そこから50㎞先までが行動可能な範囲だ。もしも2日移動しているなら、100㎞先まで考えないといけない。
ある程度、相手の意図と地形から移動先を絞り込まないと、探し当てるのにも苦労するだろう。
そうやって、隠れ里でもありそうな場所をピックアップしていると、出雲の国の名所を思い出した。
黄泉比良坂だ。
とても分かりやすい目印があった。
「候補としては、この上なく分かりやすいよな。まずはここから調べさせるか」
「そうですね。ですが、ここは海に近い平地もありますよね。近隣は人の往来もありますし、ここが巫女の目的地なら、この辺りでも目撃されているような気もしますが?」
「どうだろうなぁ。巫女の、ではなくて、大蛇のお膝元と考えると、怖い話も出てきそうだ」
黄泉比良坂の周辺は、山である。
だけど、その麓は平地があり、人が住んでいる。
ただ、松江市は黄泉比良坂よりも西にあるので、坂のある山近くは人目につかない事も多いだろう。
夏鈴が言うほど、周辺で目撃情報など無いと思う。
「黄泉比良坂に挑むんだ。菊理媛の加護でも欲しいところだけど、この場合は逆効果かな?」
「菊理媛は夫婦の縁結びには、良い神様ですけど。見立て次第では、マイナスに働きそうですね」
実際に調べに行くのは、俺たちではない。専用の捜査チームだ。
なので、菊理媛云々と言うのはただの軽口だが、お互いに嫌な符号を感じている。
夫婦の合一、性行為、子作りは、伊邪那岐と伊邪那美の神話における重要な部分。殺してはそれ以上に産む、そんな話。
菊理媛の名は、括る、一つにするという意味を持つ。
どれも、補食封印と相性の良さそうな話である。
邪推でないことを、祈るよ。