26-2 巫女と名前
ふと思ったんだけど、巫女って、神様と人を繋ぐ役割を持っているんだよな。
つまり、あの伊勢の連中にとって指導者とか導き手とか、そういった役割を持っていたことになる。
そしてたまにしか居ないとなると、他にもあのならず者のような連中がいて、そちらの様子を見に行っている可能性がある。
もしかしたら、大蛇の手の者を、そうやってどこかで確保している?
忘れていたけど、岐阜の警察で署長をしていた我妻の出身は不明なんだよな。
あいつの出身が伊勢ということはないだろう。顔が日本人だし、海外の血が混じっているようには見えなかった。
巫女は、何処かにある我妻の故郷に足を運んでいるのかもしれない。
「そう言えば、巫女の名前は?」
「巫女様は、巫女様です」
「名前は無いんだ……」
「はい。人のように、名を持つ事はないそうです」
たぶんもなにも、人間を辞めて、ドールになっているだろう巫女。
そいつは名前を持たず、ただ、大蛇の巫女と名乗っていた。
清音は何を当たり前のことを言っているんだという顔をしているが、それは不自然なことなんだよな。
生まれたときから巫女と決められ、そう生きているんだろうけど。そこに至る中で、一度も名前を付けられない事ってあるのかな?
巫女だって名前を持っている人はいくらでもいる。
巫女になって、名前を継ぐこともあるんだよ。
最初から巫女で、他に名前を知る人がいないって、かなり危険な感じである。
美星は姉さんと呼ぶけど……。
「確認だけど、清音は美星の母親でいいとして。巫女が美星の姉さんなら、清音の娘って事でいいのか?」
「違います! 美星はそうですけ、けど
え、あれ? ミコさまハ、ワタシノえ?」
「清音!!」
清音に、清音は巫女の血縁かと確認してみたが、そこで彼女はバグった。
急に血の気が引いたかと思うと、発言が怪しくなる。
くそ、やっぱり魔法なしの、変な洗脳を受けていたか! フレーバーテキストに一言書いておけよ!
相手にもカードクリエイターがいたからだろうけど、この子らにはカードに出てこない仕掛けが施されている。
情報が漏れないよう、どうやってかは知らないが、思考に制限がされていた。
「莉奈、頼む!」
「いいけどね? これ、ちょーっと強めのお薬が要るかなぁ」
どうやって洗脳されたかは知らなくても、対策はできる。
魔法とか、そういった洗脳でないなら、薬物のスペシャリストの莉奈に任せればいい。
このあと、清音だけでなく美星にも同様の処置を施し、二人の洗脳を解いていった。
そのせいで記憶の一部が飛んでいるけど、それぐらいで済んだのなら問題ない。
まったく。
面倒なことをしてくれるよ。
俺はそのあと、二人が持っていたカードモンスターにも似たような質問をして、巫女の情報収集に努めるのだった。