26-1 大蛇の巫女
名前がないのは不便なので、最初に保護した方を「清音」、ネズミを「美星」と名付けた。
名前に深い意味はない。二人ぶん考えたときに、パッと思い付いたのがこの名前だったというだけだ。
「二度と顔を見たくない」と言った清音のために、彼女は美星とは離して運用すると決めている。
美星は当然のように一緒にいたいと主張したが、こっちは先に常識を覚えるところからだ。伊勢で学んだ非常識を捨てるまで、清音が許可を出そうが、会わせる気はない。
これ以上、アホなことをして失点を重ねるのは余程の間抜けだけでいいのだ。
それと、この二人からは困った情報と重要な情報を手に入れている。
カードクリエイターという破格の力を持ちながらも、ならず者に従っていた理由だ。
カードクリエイターは、さらにもう一人いるらしいのだ。
「姉さんは『大蛇の巫女』様で、誰も逆らっちゃいけないんだ」
ここに来て、『幽暗の大蛇』の関わりが確認された。いかにもな重要人物の情報だ。
そして、伊勢で聞いた「我らの娘」発言が、その女とリンクした。
「姉さんが何処にいるか? 知らないよ。聞いても教えてくれないんだ。
俺や母さんには「巫女の資格がない」って言ってたから、教えられないんだって。資格がなんなのかも分からないし、巫女様が普段何をしているのかも分からないんだ。
姉さん? んー、怖いよ。俺たちの中では一番だし、逆らっちゃいけないんだ」
この二人を生きたまま捕まえたのは、こういった情報を抜き取るためだったけど、情報量が多いのでちょっと混乱している。
美星の洗脳具合もそうだけど、持っているカードもヤバそうだ。
実働部隊として戦闘系のカードを多数渡されている美星よりも、この「姉さん」はもっと強いカードを持っているだろう。清音と美星に暴力を振るい、従わせていたのはこの女の後ろ楯があってのことだから。
さすがに、洗脳しているから暴力を振るっても大丈夫などと甘い考えはしていないだろう。カードクリエイターとしても強いはずだ。
何より、「幽暗の大蛇」の巫女などという存在なのだから、俺の想像の埒外にある特殊能力を持っていても不思議でなはい。
複数の能力を持ち、とんでもない事ができるようになっていると考えると……敵対は得策ではない、そんな嫌な考えすら浮かぶ。
こちらのアドバンテージは、人数だ。
カード強化に関する基礎知識を与えたので、今後はこの二人も重要な戦力になる。
相手は一人のはずなので、三人がかりで戦い、押しきるしかないだろう。
テキストを見る限り、ギフトや魔法のような力で洗脳されてはいない。幼い頃からの教育で洗脳しているのだ。
戦うなら、それをどうにかするしかない。
まったく、考えなければいけないことが多くて嫌になるよ。