25-24 ネズミ③
上谷の処遇だけど、俺よりも正しく裁ける者がいる。
上谷の被害者である、カードクリエイターの少女だ。
彼女の事を、上谷はなぜか母さんなどと呼んでいるけど……そこは気にしなくてもいいか。
上谷をどうしたいか。
被害者こそ、それは一番に主張するべきだ。
当事者なので他の人間よりも主観的な意見になるが、客観性など必要ないんだよ。
犯罪者は、被害者のために裁くのだから。
名前も知らない、カードクリエイターの少女を召喚する。
少女はカードにしたときよりも回復していて、今はそこそこ健康な姿を見せている。物理的な意味では問題ない。
「母さん!」
「ひいっ!?」
その少女は、上谷を見ると小さく悲鳴を上げた。
精神的には、大丈夫ではないらしい。
少女は俺の背中に隠れ、ガタガタと震えている。
「大丈夫。落ち着いて。
ほら、よく見てごらん。あいつは鎖で縛られているから。君には何もできないよ」
「え……? あ、本当だ」
少女は背中越しに上谷を観察し、自分に危害を加えられないと知ると、安堵の息を漏らした。
ただ、それでも誰かに守ってもらいたいのか、俺の上着を掴んでいて、離そうとしない。無理に何かさせる気は無いので、あえてそこは触れないでおいた。
「母さん! 何やってるんだよ! ほら、早く俺を助けて! グズグズするなよ! あんまりトロトロしてると、またお仕置きだぞ!!」
「はぁ。春華」
「はい。黙らせます」
この状況下で上谷を野放しにしておく意味はない。
今は喋れない方が良いだろうと、鎖の量を元に戻した。
するとたちまち上谷の体から魔力が奪われ、上谷は喋れないほどぐったりした。
「ほら、大丈夫だろう? あいつに君を傷付ける事なんて、もうできやしない。だから安心していいよ」
「あの。あの“ネズミ”は、死んだのですか?」
「“ネズミ”? ああ、こいつの事ね。死んではいないよ。魔力を抜いて、大人しくさせただけ」
「そう、ですか……」
ここで、新しい事実が判明。
上谷は、“ネズミ”と呼ばれていたようだ。
理由は知らない。
ただ、あまり良い意味で使われていないんだろうなと、そんな気はした。
「今回召喚したのはね。君が、かみ、じゃない、ネズミをどうしたいか、なんだ
ほら、“母さん”なんて呼ばれていたんだし、何か意見はあるのかなって。助けたい、でもいいし、殺したい、でも構わない。もう顔を見たくないのか、仲良くやれるならそれでいいのか。どんな判断をしても怒らないし、君の意見を聞かせて欲しいな」
俺は意見を参考にしたいと、少女に優しい声で質問する。
できるだけ怯えないように、気を遣いながら、だ。
少女はしばらく考えていたけど、悩んだ末に答えを出した。
「私は、あの子の事を、もう二度と視界に入れたくないです」