2-21 鏡の対応
どうでもいいコントを終えた二人は、放置していた俺の方を向いた。
ここまでのやり取りにどこまで意味があったのか分からないが、こちらに情報を流し、考える時間を与えたという見方をすることができる。
つまり、そろそろ決断しろって言う話だな。
自分たちに従うか、それとも敵対するのか。
「それで、あの砂金をどうやって入手したのかを教えてもらえるかしら?」
「拾い物、回収物。自分で手に入れた品だよ」
「チッ、贋金が落ちていたとでも言う気か?」
「……」
「他の誰かから手に入れたわけではない、という事でいいのね?」
「そうそう。元は落ちてたものを回収しただけだよ」
「おい、それは落ちていた材料を使って自分で作った、そういう意味じゃないのか?」
「……」
「答えろ、クソガキ!!」
「……」
とりあえず、挑発でも何でもなく、こちらを軽んじている男の言葉は無視することにした。
話し相手は女性の方だけ。
その方が、相手の意向に沿った流れだろうし。
女性の側には話し合いの余地があるように振る舞った方が得策だろう。
ま、名前で認識しないようにして、どちらにも等しく情が湧かないようにしてるけど。
男は嫌われ者を演じているわけではなくおそらく素なのだろうが、女性の方は一癖も二癖もありそうだし。
信用するにはほど遠い状態だぞ。
「ねぇ。私からも聞くけど、創君は金を作れるの?」
「いや、できるわけないでしょう」
できるのは、金のカードを作ること。
言外に補足をして、さらりと嘘をつく。
正しくは誤解を招く、間違ってはいない歯抜け情報だけどね。
女性の方となら話ができる。とは言え、できるだけなんだし。
こちらの手札をあっさり晒す訳にはいかないし、何より個人的に嫌っている男の方がまだ近くにいるんだ。下手な発言なんてしないよ。
もちろん、自分の身を守るためなら全力全開で行くけど。
「じゃあ、あの金は偶然手に入れたの?」
「もちろん。金なんて、作ろうと思って作れるわけじゃないでしょう。
まぁ、その錬金術師の人? 彼らならできるみたいだけど、そんな話は初めて聞いたし。
むしろ、錬金術で金を作れる云々って話、ちゃんと一般に流布している話なの? 俺、その手の話は眉唾としか思ってなかったんだけど」
「そう。じゃあ、もう金は売りたくても売らないわよね」
「もちろん。金だけじゃなく、銀や宝石の類もまず無いだろうね。手持ちに売れるものは無いし、こっちとしても面倒事はもうごめんだ」
なお、ただの石ころが金鉱石を経て金に変わることを知ったのはただの偶然で、言っていることも大きく間違っていない。
金については、もう作ることも無いだろう。
作れることは知ったが、それよりも優先したいものが多すぎる。
強いて言うなら、自分たちで使う道具で金メッキとかが有効な物なら使ってもいいかな、そんな風に考えている程度だ。
そして他の貴金属、宝石類も以下同文。
宝石類は魔法と掛け合わせて晶石系統のアイテムを作るのに使うけど、あえて売りたいとは思わない。
銀は頑張ればミスリルとかにならないかなーって思って強化中だし、今のところ、無理をしてまで売ろうと考えていない。
むしろ、金を安定して売れるのであれば買いたいとすら思っていたぐらいだ。できなくなったけど。
俺の場合、楽をして金を稼げればラッキー、その程度の認識で金の持ち込みをしたが、売れないなら売れないでこだわる話ではない。猪を狩って稼ぐだけだし。
別に、現地のルールを破りたいわけでもないし、売ってほしくないと言われればそれまでなんだ。
取り上げようとしている事には納得しないし従いもしないが、相手が困ることをするつもりだってないんだよ。
だから。
この話し合いの結末がどうなるか次第だ。
俺がカードで作った金を売った事を理由に、どんな裁きを下そうとするか。
それ次第で、今後の人付き合いを考えるよ。
少なくとも、泥棒や強盗を正義とするような国と人を、まともな相手として見る必要は無いからな。
人から物を奪う事を正義とするなら、俺もその正義に合わせた行動をとるだけである。