25-22 ネズミ①
お粗末。
そんな上谷の行動に助けられ、こうして勝利を得たわけだが。
「これはまた、小さなクソガキだこと」
「ナリは小さくともカードクリエイターです。ゆめゆめ、油断なさらぬようお願いします」
五代が連れて来た上谷は、最初の少女よりも幼かった。
だからこそ、そう納得する自分がいる。
上谷の行った非道な振る舞いは、善悪の付かない子供が蝶の羽を毟るような行いだと理解できたからだ。
それが「悪い事」と理解できなければ、子供はどこまでも残酷になるだろう。
この子にとっては育ての親であろう、あの伊勢のならず者を思い出し、俺は苦い顔をした。
上谷と話をする前に、動けないこいつの体を診察してみた。
上谷の肌などを診れば、食事はまともに取っていたと思われる。健康状態はそこまで悪くない。
ただ、ところどころに虐待の後があり、この子もまた、あの伊勢の老人どもの被害者なのだろうと思わされた。あの人の皮を被った悪魔どもは、殺しておいて良かったと心から思う。
あと、やっぱり女の子で間違いない。
年齢が年齢なので性的特徴はまだ未発達だけど、うん、女の子だね。
だから夏鈴。そんな目で見ないように。
上谷の身体検査、持ち物確認などが終わると、ようやく尋問の時間だ。
鎖の量を減らし、魔力が回復するかしないかのギリギリを狙う。
この調整には少し手間取り、時刻はいつの間にか6時過ぎぐらいになってしまった。
上谷は回復し始めているものの、すぐには喋れないだろう。
俺たちは上谷を放置し、先に夕飯を食べることにした。
「それにしても、ここまで幼いとはな。あの老害ども、何を考えていたのやら」
「使えるものを使っていただけでしょうね。彼らにとって上谷は便利な駒でしかないのでしょう。人として育てられてもいないと思います」
全員が一度に食事をするのは危険なので、まず俺と夏鈴の二人が食事をする。
そこから順番に、3交代である。
上谷本人にこちらの考えを聞かせる意図もあり、伊勢の害悪を中心に話をしながらの食事だ。
美味い物を用意してはいるものの、話題が下衆どもなので、ちょっと味が落ちてしまったように感じる。
失敗したな。美味い物を食う時にする話じゃなかった。
美味しいものを食べているのだから、幸せそうな顔をして、楽しくお喋りをするべきだったな。その方が、上谷の心に響くだろうし。
ちらりと横眼に見れば、上谷の意識はある程度回復している様子だった。
無言でこちらの様子を窺っているので、それに気が付いた事を視線で伝え、敢えて上谷には喋りかけずに食事を続けた。
話し合い、上手くいくといいんだけどね。
どうするかの落としどころ、はっきりとは決まっていないんだよなぁ。