25-19 上谷・真③
港に戻ると、こちらに来るとき使った船6隻は、どれもダメージを受けていた。
自走可能な小破が2隻。
ある程度補修すれば自走できるだろう中破は3隻。
そして、港に沈んだ大破が1隻。
なかなかに酷い。
「やれやれ。まずは修理に必要な資材の洗い出しかな。
あと、作業のための人手の確保か」
カード化してあるので、補修・修理は一瞬で済む。
しかし人前でそれをやれば目立つのは分かり切っているので、壊れた船は普通に直すしかない。
沖に出られる程度に直したら、後はカード化解除と船の入れ替えで対処可能なんだけどね。
周囲に向けた最低限のポーズをとっておけばいいだけだと思えば、そこまで気負わずに済む。
もっとも、潜伏に大穴をあけられ沈んだ1隻については、相当手間がかかるので、今から直したとして、どれだけ時間がかかるのだろうと暗澹たる気分になってしまったよ。
鉄甲艦を修理すると言っても、鉄の部分まで完璧に修理する必要は無い。
バランスが悪くなっても構わないので、とにかく浮くのと、エンジンの起動さえしてくれれば、それで良い。
折られたマストとか、急いで直す必要は無いんだよね。
「創様。木材の手配、終わった」
「おう。凛音、ありがとう」
資材の買い付けは、襲撃の時に治療行為をした事でスムーズに行われた。
普通であれば木材という、非常に処理に時間のかかる物資の買い付けなどは簡単ではない。
特に、俺のところ以外の船も壊されているし、建物だって被害が出ているのだから、普通ならば余所者として後回しにされる。
だが、死ぬかもしれなかったはずの兵士を治療したことで、俺は釧路に恩を売ることに成功していた。
人手や資材を優先的に回してもらえたのだ。
おかげで、船の修理は10日程度で終わる見込みである。
「旦那様」
「ご主人様」
「分かっているよ。ちゃんと護衛のみんなといるし、周辺の警戒だって怠っていないだろう?」
あと、釧路が船の修理を助けてくれるのは、そういった善意だけではない。
大きな打算も混じっている。
上谷を釣り上げる、餌としての役割だ。
上谷が足の速い俺の船を盗もうとしたのは周知の事実。
ならば、その船のオーナーとして俺が顔を売ることは、上谷の注意を俺に向けることに繋がる。
馬鹿ぐらいしか引っ掛からないだろうが、それでもやることに意味はある。
特に、俺は上谷のカードクリエイターを奪っているので、相手がその事に怒っているなら、襲ってくる可能性は他の誰かよりも高くなるだろう。
あとはどうなるか、人事は尽くすので、天命を待つばかりだ。