2-20 見抜く目
「――と、いう訳なのよ。
納得できないのは分かるわ。だからちゃんと説明して、買い取ればいいのだけど」
「ふん。知らなかろうが、ルールはルールだ。法のままに動いて何が悪い」
「それで納得できない人のために、ちゃんとした話し合いと、対価の提示が必要なのよ。無駄に軋轢を作ることがどれほど愚かか、いい加減に学びなさい」
「はっ! 裁かれるべきはこいつだろうが!
俺はあの金を贋物と説明し、それを所持することが違法であると伝えたぞ。法がそうなっているにも拘らず、説明されても守らない奴がいるなら従わせるべきだろうが!」
贋金をなぜ取り締まるか、贋金がどのように経済に悪影響を与えるか、どうして国が回収しているかの説明を延々と聞かされた。
そして説明が終わったと同時に、再び言い合いが始まった。馬鹿らしい。
こいつらの目的は、なんとなくだが察することができた。
おそらく、あの金を俺が作ったかどうかを確認したいのだろう。そしてもし俺が作ったと言うのでなければ、どうやって入手したか、誰が作ったのかを知りたいと。
気になったのは、どうやってあの金を偽物と判断したか、なんだけど。
俺の場合、割と低い温度で熔けること、あんまり固くないこと、比重が重い事から、金を大丈夫と判断した。
しかし思い返してみると、目の前の男はしばらく金を見て、特に何か検査することも無く贋物だと言い出した。
つまり、俺のような検査をせずとも、男には金の真贋を見抜く何かがあるという事。
それが何かは知らないが、こいつらに俺の手札を晒すのは、かなり危険な事のように思えた。より一層、警戒心が高まる。
問答無用でなんでも見抜く目のようなものを持っているなら、あの金を作ったのが俺だと断定した行動をとるだろう。
しかし今日まで何もしなかったのであれば、まだそこまではバレていないと考えられる。
俺が贋金を作った贋作者と分かっているとして、贋作者を殺そうとしているならこれまでの食事に毒でも混ぜていただろうし、取り込もうとしているならこんな扱いはしないと思うし。いや、恐怖と暴力でしたがえようとしているならこんな扱いでいいのかもしれないが。
今のところ、俺への態度は「疑惑」程度のはずだ。
そこまで思考を進めると、女性がこの場にやってきたことにも意味があるように思える。
推論。
彼女も何らかの能力を持っていて、金の真贋判定ができる。
男の方の能力はおそらく金属そのものに作用するタイプで、女性の方は人に作用するタイプかも。
男の方は金属を見れば真贋が分かるのであれば会話スキルを磨く必要がなく、ああいった態度でも仕事ができる。
女性の方は金属ではなく人を見る・会話をすることで金属の真贋を判断するのであれば、会話を重要視するようになる。相手と話し合いが成り立たないなら、どうしても会話スキルを磨くだろうし。
あと、こうやって2人揃えたというのは、俺の顔を確認するだけでなく、女性の側にも何らかの「この場に来なければいけない理由」があると思う。
わざわざ2日かけて来たのが顔合わせだけというのも考えづらい。
これらの推論はまだ確定情報じゃないけど、頭の片隅にでも置いておこう。
俺がカードの能力を持っているように、こいつらはこいつらで、何らかの能力を持っている可能性があると。
油断すれば俺が食われかねない様な危ない連中だよ、こいつら。