25-13 再戦⑧
「戦場に戻るなら、先にこれを食べてください」
回復したことを喜んだ兵士達だが、五体満足な者は、そのまま戦場に戻ろうとした。
一人でも戦力が増えるのは良いことだし、後ろに回復要員がいることを前線の兵士に伝えることで、士気が増すのは容易に想像できる。彼らの判断は妥当だ。
しかし、回復魔法は怪我を治すだけで、流した血まではフォローしていない。
回復しきっていない身体では、足手まといになる事もある。
そこで、俺は増血剤相当のブロックバーを渡した。
即効性のある、血が足りない身体でもまともに動けるようにするマジカルな補血食品だ。
『ヒール』に欠陥があるなら、他で埋めれば良いだろう。
すぐにエネルギーになる糖分も摂取できる物なので、戦おうとする人には都合がいい。
「美味っ!? 甘い!」
「くっ! 水が無いとキツいな」
これ、味には良いんだけど、水と一緒に口に入れないとモソモソするのが難点だ。
喜んで食べているのは、口の中の水分が多い人なんだろう。
パンよりお米の日本人は口内の水分が少なめだと言うけど、多少はこういった物に適性がある人もいる。
ただ、全体的には不評のようで、半数以上は水が欲しいという顔をしていた。
「水まで飲むと、戦うのに支障が出るので。そのまま頑張って食べてください」
「くっ、分かったよ」
さすがに武器の類まで貸し出すようなことはせず、俺はブロックバーを食べ終えた兵士達を見送った。
彼らの復帰で、戦いが早く終わることを願いつつ。
その後も怪我人をここまで連れてくるように頼んでおいたので、俺は追加で何人もの怪我を治し続けた。
中には軽傷の人もいたので、そういった人には魔法を使わず、傷を洗って消毒もしてから包帯を巻いて終了。相手もこちらの魔力の残量を気にしていたので、あまり文句は出なかった。
……ちょっとは出たけどね。
面倒だったのは、俺が北海道の所属ではないと気が付いた人達だ。
中陸奥の評議会を後ろ盾にしているので、無理な勧誘はしてこない。
ただ、自主的に移籍する分には構わないだろうと、色々と条件を並べたてて、誘いをかけてきた。
俺が既婚者で、隣に春華が居たこともあり、ハニートラップを仕掛けようとするチャレンジャーがいなかったことだけは幸いだった。
もしも俺がそんな目に遭ったと知ったなら、夏鈴はかなり機嫌を悪くするだろうから。
ただでさえ春華がいたことでそれを未然に防げただろう事で、夏鈴の機嫌が悪くなることは確定しているのだ。これ以上の爆弾は要らないのである。
治療行為を初めて3時間ほどすると、夏鈴が一仕事終えて戻ってきた。
「上谷はいませんでした」
夏鈴は、俺に上谷がいたと、そう告げた。
そして、生きたまま捕縛できたと。
事前に決めておいた符丁で教えてくれた。
いなかったなら、「いなかったです」。
いたけど殺したのなら、「船ごと沈みました」。
いたけど逃がしたならそのまま言って大丈夫。
俺としては、ただ働きはご免なので、何らかの成果物が欲しかったんだよね。
いなかったのなら最悪だが、居たのであれば死体を回収し、カード化しておこうと思ったのだ。
上谷がそんな事をやろうとしていただろう事を、俺がやるという訳だよ。
その為、北海道の人には悪いが、上谷は俺がもらおうと思ったのである。
現在、上谷は吸魔晶石の鎖で縛られているはず。
カードクリエイターは、魔力が無ければただの人だからね。
魔力さえどうにかできれば、生きたまま捕縛しても大丈夫なんだよ。