25-12 再戦⑦
船を夏鈴たちに任せたので、俺は俺でやれることをやる。
「東の方が厳しいみたいだね。
ちょっとだけ近付いて、治療活動をするよ」
「分かりました」
俺は春華と親衛隊の5人を連れ、ちょっとだけ東側に行く。
その途中でカードにしてしまってあった包帯やら傷薬の入ったバックパックを人数分リリースし、簡単だが準備を整える。
そして、適当な軒先で声を上げた。
「怪我人はいませんか? 魔法で治療を行ないます!」
「本当か!? ここに怪我人が大勢いる! 手当てできるだけでもいい、頼む!!」
ここは非戦闘区域でも戦闘区域からそこまで離れていないちょっと危険かもしれない場所だ。
そのため、近くの建物には怪我人が集められていた。
戦闘区域に置いておくことはできないが、安全圏まで避難させる余裕が無い為である。
そんな怪我人の面倒を見ていた人が俺の声に気が付いて反応した。
2階建ての建物の2階部分にある窓から顔を出し、こちらに向かって声を上げる。
「分かりました! すぐ向かいます!!」
俺は声をあげた人が居る建物に、春華を先行させた。
どんな時でも、俺が先陣を切るのはアウトなんだよなぁ。悪いなぁとは思うけど、安全確保に誰かが先行するのは基本であった。
案内された建物の中には、重傷な人が大勢いた。
ここにいる人は割と酷い、ではなく、かなり酷い怪我をしている。
「軽い怪我の奴はまだ戦ってるよ。戦えなくなったのをここに集めているんだ。
魔法使いさん、頼む。こいつらを助けてやってくれ」
「ええ、任せてください。俺はそのために来たんですから」
俺が釧路を襲っている連中と直接戦うのはNGである。危険だから、当たり前だ。
そんなことをすれば、俺を残していった夏鈴に怒られる。絶対にだ。
しかし俺という駒を浮かせておくのはもったいないので、せめて後方支援、治療活動で貢献しようと思う。
回復魔法が使える人間というのは貴重だからね。有難がられるのは間違いないのだ。
ここにいる連中は、そのままなら死を待つだけだ。ろくな手当もされていない。
俺を招き入れたのは、藁に縋るような判断である。
何もしないで死なせるよりも、可能性があるならそれに賭けたいということだろう。
俺を信用しているとか、そういう話ではないのだ。
信用されておらずとも、やると言ったからには全員助けるつもりで魔法を使うけどね。
俺は『ヒールライトシャワー』という広範囲の回復魔法で、傷者たちをまとめて癒す。
一回で『ヒール』の10倍ぐらい魔力を使うが、10人以上ならこの魔法の方が効率が良くなる。
使いどころの少ない魔法であるが、こんな時には便利だ。
重傷だった怪我人たちは一回では癒しきれない。
俺は同じ魔法をもう一度使い、彼らの傷を完全に癒し終えた。
「すみません。少し休憩しますね」
俺は疲れたふりをして、ちょっと重くなった気持ちを振り払うことにした。
目の前では、重傷だった者たちが生き残ったことを喜び、涙を流している。
しかし、一部の者は体に残った痕、失った手足に絶望の声を上げていた。
俺は確かに彼らの命を繋いだが、完全に救ったわけではない。
やろうと思えばそれもできたが、自身の身の安全を考え、そこまではしなかったのだ。
俺は自分の利己的な考えに嫌気がさす。
物理的にできることと、立場的・精神的にできることは違う。
俺も、まだまだであった。