25-11 再戦⑥
港が襲われているという事は、相手が逃亡を考えているという事。
船を奪い、それに乗って逃げるのだろう。
ついでに「船が沈められた」と言っているので、追いかけてくる船を潰すつもりなのだろうが、それをされては北海道の経済にダメージを与えられるし、何より自分たちの船を守るために動きたい。
それに追撃という相手の戦力を安全に削りやすい状況で戦える方が、俺にとっては都合が良い。
今回は夏鈴だけでなく凛音と莉奈も連れてきているので、目立つだろうけど、相手を船ごと沈めるのもアリだと思う。
港に戻ると、そこは確かに戦場だった。
港に付き物の倉庫街からは火の手が上がっていたり、建物が壊されていたりする。
港に目を向けても壊された船がいくつも見られ、その中には俺の船も混じっている。
「大和はやっぱり沈むのかよ!!」
「旦那様! 出ていく船があります! 「長門」です!」
俺が壊された船の中に自分の船が混じっている事を嘆くと、夏鈴は沖に向けて動き出している船を見付けた。
それは俺の船の一つ、「長門」であった。
あいつら、狙いは鉄甲艦か! 足の速い船を選んで奪いやがった!
周囲と比較し、足の速い船を手に入れ、その速さで逃亡する計画だったか!
俺は憤慨するが、同時に都合が良いと、ほくそ笑みもした。
あの船は俺の船、つまりカード登録しているこちらに送還の決定権がある。
そしてエンジンを起動させなければ帆を張って船を動かしたところで足が遅く、追いつくことも容易だ。エンジンを動かす知識と燃料を持たない連中では、どうにもならないだろう。
上谷とは考えていなかったが、船を盗まれないようにガソリンは抜いてあるので、カードクリエイターの能力をどう使おうが、対応はできまい。
送還は最終手段。
人の目に付く今はしたくない。
それよりも他の船で接舷して乗り込むか。
「大和」など、沈んだ鉄甲艦ばかりではなく、ただマストが折られ、放置されている船もある。
そして都合よく、「武蔵」がその状態だった。
俺は周囲にバレない様にカードを確認し、そのフレーバーテキストを読む。
「武蔵」には特に何かが仕掛けられているといった文章はなく、問題は無さそうだ。マストが折られただけである。
ついでに奪われた「長門」もチェックしておくが、こちらも特に問題は無い。ガソリンが無いだけである。
「夏鈴、凛音。任せた!」
「すぐに終わらせます」
「任せて」
俺は追撃を夏鈴と凛音に任せ、遠距離攻撃用に魔術部隊などを付けて送り出す。
海はこれでいい。
後は、俺が陸地で生き残るだけである。
もしかすると、これが町を襲った陽動その1に続く陽動その2で、上谷がまだ陸にいる可能性も有るからな。
逃げ出したと思わせて、潜伏しているかもしれないんだ。夏鈴たちの結果が出るまで油断はできないね。