25-7 再戦①
新兵ならいざ知らず、ベテランの兵士が普通――いや、かなり無茶な訓練をしても、短期間で一気に強くなるという事は無い。
能力を維持するのだって訓練は必要だし、上乗せの訓練が1ヶ月や2ヶ月では、そこまで大きな結果は出ない。
だが、成果が出ないわけではない。
月単位の訓練は確実に技術的な成長をもたらすし、個々の戦闘能力ではなく周囲との連携力で軍は強化されていく。
その結果。
「――ええ、ええ。約束ですからね。不本意ではありますが、北海道行きは許可します。
ですが、本当に気を付けてくださいよ。最悪、北海道でタイラントボアたちを使う事になっても構いません。旦那様は生きて戻る事だけを優先してください」
「分かっているよ。俺だって死にたくないんだ。無茶はしないよ」
半年たたないうちに、夏鈴の許可が出た。
この手の約束事は、目に見える数値を使って約束するものだ。一定のノルマを達成したらクリアと、予め決めてあった。
もしも抽象的な言葉で約束すると、相手の解釈で言い逃れをされるからだ。
今回は、夏鈴の出したお題をすべてクリアするというもの。
護衛の戦力や、軍の戦力。それらを評価させたんだよ。
護衛であれば、軍を相手にしつつ、俺を逃がすとか。
軍であれば、夏鈴の指揮する3倍の兵力相手に平野で防戦してみせるとか。
そんな無茶なお題をクリアして、北海道行きを勝ち取った。新兵たちの軍が思いっきり足を引っ張ったときはどうしてくれようと思ったが、こちらの采配ミスが皆無でもないし、ベテランと同じ感覚で新兵を使えば向こうも困ると、そこは飲み込んだ。
……ちなみに、一回だとまぐれ扱いになるから、三回クリアが基本なんだよ。
要求された水準をギリギリ満たした、では認めてもらえない。要求された水準を安定してクリアする必要があったんだ。
この手の約束は、相手もそうだけど、こっちも言い逃れできないからね。本当に大変だった……。
とにかく、夏になる前には北海道だ。
おそらくまだいるであろうカードクリエイター、仮称・上谷を抹殺するための準備が整ったのであった。