25-4 敵の話
育毛剤は、夏鈴の髪の毛を素早く癒してくれた、らしい。
「らしい」というのは、ダメージを負っていたという夏鈴の髪をちゃんと見ていないので、あくまで伝聞でしかないからだ。
とりあえず、妻の機嫌は悪くなさそうだ。
北海道の話だが、あの後、中陸奥は兵士らから連絡が来ないが、こちらは何か掴んでいないかと問い合わせが来た。
俺は知っている範囲の情報を伝えるよりも、状況が分からないというフリをすることにした。
何があったのか詳細に知っているのはおかしいだろうし、こちらも状況が分からず困惑している、再度人を送ろうか悩んでいると返しておいた。
なお、全滅させられたのは戦闘系のメンバーであり、最初に送り込んだ情報収集用のメンバーは生き残っている。
彼らが生き残っているので、情報収集要員を再度送る必要は無い。
ただ、彼らだけでは探り切れなかった情報が何か無いかを調べるには、もう少し追加の人員が必要かもしれない。
最低でも、敵にいるだろうカードクリエイターの情報ぐらいは入手したかった。
そんなこちらの事情は横に置き、中陸奥の国は、二度目の派兵を計画している。
あちらも自前の情報収集要員は戦闘に連れて行かなかったはずだし、何があったかは分からずとも何かがあった事ぐらいは分かっている。
それでも、自国のメンツにかけて挑まねばならないと考えていそうだ。
危険を承知の上でリベンジを計画するならこちらに言うべきことは無く、ただ武運を祈るばかりである。
だが、敵の戦力評価が間違っていた事実を受け止め、確実に勝てる戦力を送り込まねば意味は無いと、それだけは心配しておいた。
「その、カードクリエイターは、いつまで北海道に居ると思いますか?」
「……あ。もしかしたら、もういない可能性の方が高いとか?」
「はい。私たちの集めた軍に勝てたとはいえ、革命の混乱に乗じて何が得たかったのかも分かりませんが、もしかしたら、もうやりたい事を終えて帰国し始めているかもしれませんね」
ちなみに、夏鈴はカードクリエイターはもう北海道に居ない可能性が高いと思っている。
敵である彼か彼女かは知らないけど、そいつは冬の北海道という情報が寸断されている環境で暴れまわっていたのだから、冬が終われば撤退するんじゃないかと考えていた。
強い事と無敵である事は同じではなく、何度も攻められては厄介だから、足がついたのでさっさと逃げだしてもおかしくはない。
カードはリキャストタイムがあるのだし、短期間で何度もモンスターを召喚出来ない。
断続的に攻め続ければ、相手が音を上げる可能性は十分にある。
普通の人の軍では、人的消耗が大きすぎて現実的な話じゃないけどね。
俺としては、叩けるなら叩いておきたい。
だが、無理をする気にはならない。
最低でも、相手の所在が掴めない今は動く気にならない。
「話し合い解決は、する用意がありますか?」
「無いよ。北海道で相手がした悪行を聞く限りは、話をしたいとも思えない」
イメージとしては、熊のようなものか。
こちらの生存圏にいるなら、安全の為に狩っておこうというレベル。
共存とはいかない相手だと認識しているよ。