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2-19 相手の言い分

 大垣市と岐阜市の貴金属買取店の店主が、護衛数名を引き連れて俺の所にやって来た。


 現れた二人の組み合わせは、意外なようであり、意外でもない。

 場所は違えど二人とも貴金属の買取をしている者たちだ。顔見知りであった様子だったし、こうして時間がかかったのも岐阜市の店主を呼びに行ったと考えればつじつまが合う。


 だからまぁ、理解可能な話ではある。

 面白いかどうかは別にして。



「それにしても、私は話をして、留まってもらえばいいと言ったはずよね。なんで彼は捕まっているのかしら?」

「贋金の保有は罪だろうが。法に従わない犯罪者を捕まえて何が悪い。

 それに、こちらの忠告を無視して贋金を売ったのは確信犯だろう。故意に罪を犯したんだぞ、こいつは」


 俺の顔を(あらた)めた二人は、俺を無視してなぜか言い合い(コント)を始めた。


 表情や仕草は自然だけど、言い合う話の内容を考えれば不自然極まりない。

 俺に話を聞かせて情報を与えるのと、飴と鞭の役割をはっきりさせ、岐阜市の女性店主に懐柔させようという腹積もりに見える。

 今のところ、この二人を信用する理由が無く、どちらも疑ってかかるべきだろう。



「こんな所にいつまでもいる必要は無いわ。

 私は貴方と話がしたいのよ。別の部屋に行きましょう」


 岐阜の店主が俺を労る様な顔でそんな提案をした。


「いや。話し合いって言うなら、ここの方が良い」


 けどまぁ、拘置所の鉄格子は俺にとってメリットの方が大きかったりする。なので、鉄格子という防壁を手放さない。

 俺はこの場で話をするようにと相手に求めた。


 俺がこの場に留まるといった事で男の方は面白そうに笑い、女性の方は困ったような顔をした。

 そして女性は俺の顔を見て、諦めたように息を吐く。


「そう。なら、ここで話をさせてもらうわね」


 女性は俺の言葉を聞き入れると、人を呼んで椅子を持ってこさせる。

 二人は椅子に腰を下ろし、こちらを向いた。



 鉄格子の防壁は無事。

 扉にかかった鍵はそのままなので、俺の安全は少しの間なら確保されている。

 俺には椅子を与えられていないので、俺は床に直に座り、話を聞く体勢をとった。


 この話し合いは、鉄格子を挟んで始まった。


 女性の方が普通に名乗り、男の方の紹介もした。

 名前は覚える気にもならなかったのでスルー。現状、必要のない情報だ。

 ただ、こちらも名乗りだけはしておいた。



「まず、貴方の持ってきた金についてお話しするわ。

 あの金は、錬金術かそれに類するもので造られた贋物であると判明したの。美濃の国、ううん、この日本のどの国でも単純所持の認められない、危険物だったのよ」


 そうして、女性は俺の何が問題なのかを俺に説明し始める。

 要は人工の金が大量に流通すると金相場が安定せず、貨幣経済が混乱するという内容である。



 なるほど、とは思うが、納得できる話ではないから俺は二人を睨むようにしておく。

 理由を横に置き記憶の中の情報から例えるなら、麻薬が合法な医薬品扱いの国から違法な国に渡航した時に、税関で麻薬を取り上げられそうになったのが俺の現状なわけか。


 とりあえず、ふざけんな、だな。

 今のたとえは相手側の言い分。俺にしてみれば、ドレスコードの問題でしかない。

 店の雰囲気をぶち壊すような恰好をした客が門前払いされるんは仕方のない事だが、だからと言って客にもならなかった人から金をとるわけではない。予約していたらキャンセル料が発生するので話は変わるが。



 どんな理由を並べ立てられようと、問答無用で持ち物を奪われることを納得できるはずもない。

 俺の中では、美濃の国の法律であろうと無条件で従う理由が無い。

 流通させたくないというならそこは従うけれど、奪わせはしない。


 意味もなく反抗する気はないが、唯々諾々と従順であることは自分の命を差し出すようなものだ。

 絶対に、従ってやるものか。


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