25-2 授かり物④
「ちょっと予想外だな。この子にはカードが無い」
「……当たり前では?」
「いや、終の所の子は、カードモンスターだっただろ」
娘の名前は『咲耶』とした。
咲耶は春をイメージした名前の一つで、花のような美しい娘、と言った意味合いがある。
娘に贈る名前としては、いいんじゃ無いだろうか。
夏鈴と事前に相談していた名前の一つとなる。
子供が産まれたのなら、ちゃんと可愛がりたいと思うが、父親としてこの時にやらねばならないことも多い。
「創さん、これをどうぞ」
「ありがとうございます」
子が産まれたことを祝福してくれる人の応対だ。
出産直後の夏鈴はベッドの上なので、俺が来客に応対しなければならない。
この世界、子供が産まれたことが慶事として大々的に、地域で祝うのが普通だ。
家の子供では無く、その地域の子供という認識をされる。
言うなれば、村一つが家族のようなものだ。
ゴブニュート村でもそういった気質はあるので、村は夕飯時からずっと祝いのムードに包まれている。
そして権力者とつながりを持つと、そういった人との付き合い、祝いの品の贈り合いをする必要がある。
連絡をした翌日には近場の署長さんや斉藤などが直接村に乗り込んできて、俺に祝いの品を手渡していった。
こういった祝い事は素早く行なうことで「貴方のことを大切にしていますよ」というアピールになる訳だ。
後回しにしたり、手紙のやりとりだけで済ませるのは、そこそこ程度の付き合いという意味合いになるので、太いパイプを作りたい時は相手に対して手間暇かけるものである。
多分も何も、事前にしっかり準備してあっただろうね。
出産予定日は伝えてあったし、そこから大きくズレていないから。
しばらくすれば尾張や三河からも人が来るし、俺は来客の対応に追われ忙しくしていた。
で、そうなると、新規で雇用した事になる護衛、春華の姿が来客の目に付く。
容姿は美しいと言えるし、戦闘能力も見る人が見れば、とても強いのが分かる。
本人曰く、「容姿と能力で目立つことにより周囲の視線を自分に向けさせ、護衛対象を守るのです」ということらしい。
「彼女は何者なんだ?」と問われることも多く、新規で雇用した護衛と伝えると、後の話になるが、周囲から「自分にも紹介して欲しい」というお願いをされることになる。仲には引き抜きたいという話も。
その場でお願いされなかったのは、祝いの席でそういったお願いをするのが無礼だからだ。紹介の依頼があったのは、数日先の話である。
俺は来客に加え、そんな連中の相手もすることになった。