25-26 ニューマン・ガーディアン③
猫の威嚇を見たことがあるだろうか?
漫画的に、毛を逆立てているのを見たことがある人なら多いと思う。
猫って実際に毛を逆立てているんだよね。
どうやっているかは知らないけどさ。
「旦那様?」
「護衛のニューマンだけど、うん……なんでもない」
夏鈴に春華を紹介してみたわけだが、夏鈴は俺と春華を見比べ――おそらく身長差を気にしたと思われる――、次に胸に目をやり、ほんの一瞬だけ顔を歪ませた。
その後、俺に視線を向け直したが、どこか凄みのある笑顔を浮かべている。
春華はと言うと、そんな夏鈴の態度に一切反応せず、普通にしている。
表情も特に変化は見られない。
いや、やや胸を張るようにしているな。すました顔だが、胸のを大きさを見せつけている?
女の戦い、と言うものだろうか。
春華の気性に問題は無いと思っていたが、ここにきて夏鈴が嫌がる素振りを見せたのは意外だった。
凛音や莉菜は別にしても、今までも護衛に女性が付くことはあったし、その時は何の反応も示していなかったからだ。
ニューマン、と言うのが問題なのだろうか?
スペック的な意味ではもっとも優秀な種族なので、それだけで選んだ訳だが。
「このタイミングで、女性の護衛を横に置かれるというのは、あまり嬉しくなかっただけですよ」
「そこは、運の要素だから。性別や外見は俺の関与しないところの話だから」
「分かっていますよ。ですが、面白くないのです」
夏鈴は完全に拗ねている。
春華は「護衛はこういった事に口は挟みませんよ」とばかりに何も言わない。真顔のまま、表情も崩さない。
護衛としては、それで正しい。
下手に口を挟まれるよりは良いだろうね。
夏鈴の出産まで、そう日にちはない。
種族的な本能なのかは知らないが、あと数日、10日はないだろうと夏鈴は確信しているようだ。
そんな時にストレスを与えるのは本意ではない。
「んー。なら、さ。春華はしばらく夏鈴に付けておくか?
俺も出産までは家に居るし、そこまで護衛を必要とすることもないだろうから」
俺は夏鈴のストレスを減らす為に、そんな提案をしてみた。
俺の横に春華がいるのは嫌なのだろうと思っての発言だが、夏鈴はそれに難色を示した。
「……いえ、春華さんは旦那様が連れ置いてください。職務に忠実そうではありますから、旦那様の横の方が都合が良いと思います」
夏鈴は春華が隣にいる方がストレスがかかるのだろうか。
チラリと春華を見るが、彼女は何も言わない。反応を示さない。
それは護衛の本分では無いという事だろう。
これまでの反応も考えると、春華は信頼できそうな護衛なのだろうと、俺はその様に判断した。
仕事に忠実で、余計なことをしない。
この時は、その程度にしか考えていなかったのだ。
護衛をされる側の心構えが全然できていない俺との相性について、深く考えなかったことを、少し後悔する。
たぶん、夏鈴はそのあたりを見抜いていたのではないだろうか?
ちょっと教えて欲しかったよ。