24-20 もう一人のカードクリエイター④
後背を突かれるというのは、軍隊にとって致命的な失態である。
これが個人であれば振りむけば済む話なのだが、集団であれば一人二人が振り向くだけでは済まず、場所の入れ替えなども含めてかなり時間がかかる。
奇襲を受けたという事もあり、態勢を立て直す間もなく一気にやられてしまったようだ。
なお、正面は俺のカードモンスターが務めていたため、奇襲は中陸奥の国の兵士が先に受けている。
俺のカードモンスターたちが攻められている段階で中陸奥の兵士たちはほぼ全滅しており、もう全員回収しても問題無いと言われてしまった。
……中陸奥の、仙台市の評議会の人たちに申し訳ない気持ちになるな。
あの人たちも、兵士を死地に追いやろうというつもりは無かっただろうに。
北海道の状況は分かったが、今すぐに打てる手は持っていない。
船は順調に増やしているので、追加の人員を送り込む事は可能だ。
だが、それでも移動には数日かかるし、即効性のある手段は無いと言っていい。
敗北を受け入れ、仕切り直しとするべきだろう。
「夏鈴。ただ人を送り込んで、勝てると思うか?」
「相手に旦那様と同格の敵がいたとするのなら、不可能だと思います。
旦那様の強みは、後出してある事です。こちらが遠方から攻め込む側である以上、戦力を特定され、それ以上の戦力で押し潰される可能性の方が高いです。特に人員の補充をされると辛くなるでしょう。
それを上回る質で対応するにしても、相手はこちらに有利な戦力を宛がう事が可能なので、よほどの戦力差が無い限り、押し返されると思います」
夏鈴に俺たちと「敵」の戦力を比較させてみたが、やはり召喚者である俺の有無は大きい。
確実に勝ちに行くなら、俺が現地入りするしかないと考えられた。
現状では。そこまでして「敵」を倒すべきかどうかという迷いがある。
俺が北海道入りするのは、そこそこではなくかなり危険な行為で、下手を打てば死ぬかもしれない。
直感ひとつで「敵」を倒すべきだと思っているが、根拠の無いあやふやな状態でそこまでするかどうかは、判断しきれない。
「私は、ここで損切りをすべきだと思います。
中陸奥の方々には悪いですが、これ以上のお付き合いをしても損に見合う利益があると思えません。
幸い、中陸奥の方々がお味方の全滅を知るまでには時間があります。ここは静観をして、これ以上の派兵は見合わせるべきかと」
夏鈴は、もう戦うべきではないと言い切る。
最初こそ、俺の不安と中陸奥の判断により北海道遠征に付き合う事を見逃していたが、これ以上の損害は許容できない。
そもそも北海道遠征で得られるものなど何もないという考えだからだ。
そんな事に使うリソースがあるのであれば、他に使った方が有意義だと言われてしまう。
俺としては、漠然とした不安があり、北海道を正常な状態にするという目的で動いていたが、それで得られる利益が無い事は承知の上で動いている。
合理的な考えに基づく行動ではなく、直感的な、オカルト的な判断で決断している。
よってここで引くという選択肢は取れず、俺が北海道に乗り込む事も視野に入れていたりした。
「反対です! 旦那様がそこまでする理由が分かりません!」
当然のように夏鈴は反対し、俺はそれを説得する材料を持たないので、意見は平行線をたどってしまう。
俺が現地入りしなければ、切り札級のカード『タイラントボア』などは使えない。
決め手に欠ける中途半端な戦力では、相手の戦力を一時的に削る事はできても、決定打に欠ける。
夏鈴だってそれが分かっていても、そうまでする理由が無ければ納得できない。
敵が俺と同種の能力を持っていると分かっていても、戦わねばならないとは思えない。
下手に戦うのではなく、対話でどうにかならないかと、夏鈴は言う。
おそらく、それは不可能だと、俺の直感が否定するが――根拠は無い。
合理性を超える何かが無ければ、話は先に進まなかった。