24-16 赤のツリーグラフ⑧
俺は、そこまで自分の事を特別な人間だと思ったことは無い。
ちょっとばかり凄い能力を身につけた、凡人だと思っている。
凡人だから、もっと優秀な誰かが手に入れていれば世界を変えられるほどの能力を、自分の為以外には使えないんだと思っていた。
しかし、そんな俺はこのカード能力の事は凄いと思っている。
この能力は上手く使いこなせれば、天下が取れるほどの能力だ。
それこそ、ユニークスキルと、信じてしまうほどに。
目の前には、俺の持つカードと全く同じデザインのカード。
枚数は20枚だが、そのカードには見覚えがある。
『塩パン』『ミルク』『水小樽』など……俺の初期カードと、全く同じものだ。
俺は震える手でそのうちの1枚を掴んだ。
「≪マテリアライズ≫」
俺の意思に従い、カードはただの塩パンを物質化した。
思わず口の端がゆがんだ。
パンを口にすると、塩パンに混じっている小石で口の中がジャリジャリする。
ああ、そう言えばそうだったな。
だから石を取り除いた、具無しのシチューを作ったんだったよな。
俺は自分のカードを取り出し、その中から目当てのものを取り出す。
『兎の肉入りシチュー』のカードだ。具無しのままでは寂しいからと、いろいろ追加で煮込んだシチューである。
自分の初期カードは、ほとんどがこうやって名前を変えてしまっていた。そのままの形で残ったカードは『平地』『火口箱』ぐらいである。
何年も前のことを思い返すと、悲しい事でもないのになぜか涙が流れた。
改めて周囲を観察すると、この村の異常性がはっきりする。
このあたりにある家は、おそらくも何も、カード能力で作ったものだ。
現在の住人がどういった経緯で住み始めたのは知らないけど、俺と同じ能力の保有者が作ったと見て間違いない。
ここにカードが残されていたことを考えると、おそらく、まともな手段で引き継がれていない気がする。
「創様。連中の集落は、ここ以外にもあります。
感傷に浸るよりも、今は前に進むべきかと」
「そうだね。ああ、そうだ。今度は根切りに、と言わず、年配のものを中心に、捕獲をしよう。情報を引き出すよ」
「御意」
副官は、空気を読むことなく俺に諫言をした。
こんな時は、空気を読まない人間の方が合理的で正しい判断を出来る。
俺は感傷に浸ろうとする自身の弱気を振り払い、気持ちを新たにした。
目の前のカードだけでは、何があったのか分からない。
この地の歴史を知るべく、俺は仲間たちに進撃を命じた。