24-13 赤のツリーグラフ⑤
陽動に引っかかればどこかが手薄になってそこを食い破られる。
しかし、それにはいくつもの条件をクリアしていなければならない。
陽動をする囮が、相手を引きつけられるだけの戦力である事。
陽動で攻め込む先が相手にとって見捨てられない場所である事。
陽動で敵を釣ったあと、敵を十分な時間、引きつけておける事。
そして陽動の状況、その情報を共有する事、である。
ちなみに、一番大変なのが4つめの情報共有。
敵を攻めました、釣りました、持ちこたえています。
でも、本命の部隊がそれを知らなければ効果的なタイミングで動けず、陽動が無駄死にして終わり。
だから戦力の分散はいつだってハイリスクだ。
日時をあらかじめ決めてしまえば作戦から柔軟性が喪われ天候の変化などに対応できなかったりするしね。
効果的に、複数の部隊が戦闘を行なうのは、とても難しい事なんだ。
情報共有には伝令兵、人間を使うのが一般的だが、人間は足が遅く、そこそこ目立つ。
これを補う為に伝書鳩を使う所もあるが、伝書鳩に対するカウンターに鷹匠が居て、彼らが敵の伝書鳩を食い荒らしておくように動いていたりする。
これがこの時代の情報戦の一つである。
救援に向かった先は、火砲も魔法も足りていない、戦国時代どころか応仁の乱レベルの戦場であった。
そんな戦場に現れた俺たちは、第一次世界大戦の戦闘機みたいな存在として猛威を振るう。
大狼の足の速さは車なみ。地面の上を高速移動する大狼を捕らえるのは容易ではない。逃げたところで追い付かれる。
火力は騎乗した者の魔法が担当し、近付かないので攻撃できる人間が限られ、戦力を活かす事ができない。
こんな相手と戦う事を想定していない敵は手も足も出ない。
俺たちは一方的に敵を蹂躙した。
大狼たちは自分たちだけでも敵を蹂躙できたと思っているようだったが、それはそれでまた披露してもらう機会があるので、今は楽に戦わせて欲しい。
実際に戦うのは仲間の仕事。
俺は後方で救護活動を行なっており、負傷者の治療や炊き出しを中心に行なっていた。
こちらはこちらで忙しい。何度も戦闘があった為、怪我人が多いのだ。
魔法による治療はカード枠温存を考え最低限にしたが、包帯を巻いたり骨折の人に添え木をするぐらいはやっておく。
で、発電機が本命でも食料もついでに持ち去られたり焼かれたりしていたので、食事面でもフォローが必要だった。
炊き出しは応急処置のようなものだけど、本格的な救援が来るまでの繋ぎとしては役に立つ。
戦争は本当に厄介で、可能な限り早く終わらせる事が大事だと、つくづく思うね。
目の前の敵を全て倒し、簡単な救護活動を続け、3日。
俺たち以外の戦力がある程度揃いきる。
「これで、このあたりの敵は掃討できたと思います。
では、我々はこのまま敵を追撃しますので、失礼します」
「早急な応援、感謝します。御礼に関しては後ほど、評議会を通じて最大限に報いる事を、この場でお約束します」
もう大丈夫と判断したところで、現地の指揮官に俺たちは次の戦場へ向かうと告げた。
現地で一番偉い人、少佐相当の武官、秋雨さんは俺に向かって敬礼をして、謝辞を述べた。
たった3日間の戦友でも、戦友である事には変わりない。今では互いに敬意を持っている。
俺たちは信頼できる友人に背を向け、伊勢の地を目指した。