2-17 窃盗
あの強欲店主がいた。
つまり、あの店はまだ代替わりをしていないのだろう。
有罪だ。
実刑判決だ。
グダグダする理由が無いので、さっさと私刑を執行してしまおうと思う。
あの店主の顔を見て思ったが、今の俺は以前の俺と比べ、あまり怒りを抱いていない。
なので、感情的な部分は抑えめに、単純に被った不利益の補填だけやらせてもらう。
一度店を離れ、夜を待ち、サクッと盗みに入ろう。
全身黒尽くめ、月明りの下でも目と手だけがかろうじて見える姿の俺。
誰かに見られたら即通報ものだろう。
周囲に人影が無い事を確認し、さっさとやるべき事を済ませに動く。
鍵のかかったドアの前。
俺はまず、ドアの鍵とは別に取り付けられている南京錠に対し。
「『カード化』」
カード化で、解錠もせずに取り除く。
ついでにドアそのものもカード化し、これも収入、ゴチになりますと店内に侵入する。
普通に考え、盗む物と言えばお金や宝石が主流だ。
かさ張らず価値がある物なので、逃げる時の事を考えればこれが一番盗みやすいのだ。
特にお金であればそのまま他の町で使えるので、使い勝手がいいわけだ。
逆に、大きな絵画や陶器などは、どんなに希少であっても盗みにくい。
物は小さければ小さいほど都合が良いのだ。
かさ張らない方が良いという簡単な話に加え、売却ルートを持たない一般人には無用の長物。売れない芸術品はただの置物。
芸術を解さない俺のような俗物にとっては何の利益にならない。
俺の場合、『カード化』という盗みに役立つ力があるので、物の大きさはあまり考えなくてもいい。
売却の手間を考えれば宝石や貴金属も不要であるし、どうにかしてやろうという気にはならない。付け加えるなら、金や宝石は防犯対策がしっかりしてあるようなので、カード化を駆使しても面倒そうだ。
それよりも、店の中にある良さげな家具の方が欲しい。
「買う」というプロセスを省略して、現物支給してもらえばいい。
俺は商談の時に使った部屋からではなく店主の個室から、愛用しているだろうデカくて重そうな机と椅子を回収する。
マホガニーだっけ? なんかそんな感じの木材で出来た机と椅子だよ。
机の方はいくつも引き出しのある、貴族の当主とかどこかの社長とかが使っていそうな重苦しい奴。
椅子の方は何かの皮を張った、クッションが利いていて座り心地の良さそうなデカい椅子。普通に考えたら一人用なんだろうけど、詰めれば二人ぐらい座れそうだ。
うん。
お金とか宝石とかはどうでもいいけど、なかなか良さそうな品を手に入れたね。
こうして俺は南京錠にドア3枚に加え、お高い感じの机と椅子を入手して満足するのであった。
ただ。のちの自分に少しだけ言い訳をするなら。
自分が何をしているのか、きちんと考えるべきだった。
事の発端、そもそもの問題、社会への帰属をしていない自分の影響力。
また、自身のみを特別視するような傲慢さ。
それらは自覚が難しい。
実際にカード関連の能力は「チート」と言って良いもので、自分ルールを周囲に押し付けている事に気が付いていなかったのだ。
本気で周囲と関わらないならそれでも良かったが、人と関係を持つなら。
もう少しだけ、相手の都合を考えてあげるべきだった。