24-9 赤のツリーグラフ①
不満を抱えた夏鈴の相手を適度にしつつ、村での仕事を熟していく。
仕事は俺が居なくても滞ることが無いように手を打つが、どうしても俺の手が必要な部分だけを受け持つようにしている。
具体的には、外の“偉い人”の相手だったり、村長や浅野さんらに与えた権限を越えると思われた要望書への認印だったりと、そんなに量が無い仕事だけどね。基本は「良きに計らえ」なのだ。
後の時間は見回りなどだ。
自分の目で見る、人と話す。
そうやって現状を正しく把握し、書面だけで村を見ないようにする。
小さな村の代表だからこそできる事で、これで尾張の国とか、都会の国主になったらそんな視察だけでは手が回らなくなる。
結局は自分の信用する誰かを使い、書面上でしかものを見れなくなる。
人が作るコミュニティは、どうしても規模が大きくなればシステマチックにするしかないのだ。
そうやって俺が書類に目を通していると、夏鈴が急ぎの案件を持ってきた。
「北海道からの報告書か。ようやく届いたな」
夏鈴の手にあったのは、伝書鳩が持ってきた書類。
中身は、北海道に送った調査隊が書いた報告書だ。
彼らを見送ってから4ヶ月ぐらいかかっているけど、移動と調査、そして報告書が北海道からこちらに届くまでの時間を考えると、かなり早い方だと言える。
俺は早速目を通すことにした。
報告書を軽く読んでみると、モンスター被害が増大し、北の方にあった幾つかの村が消えた、そんな事が書いてあった。
ただ、本当にモンスターにやられたのかは追加の調査が必要で、冬の間は雪に邪魔をされて動けないともある。
モンスターと戦うための集団が送り込まれていたのだが、そんな彼らが悲痛な表情で村の全滅を伝えていところを下忍の一人が見かけたけど、どうにもその悲痛さが、守りきれなかった悔しさよりも悪事に荷担した罪悪感のように見えたのだ。
まるで、全滅させたのが自分達であるかのように。
……モンスターに襲われた、内戦に巻き込まれた、それ以外の理由で人が消えている可能性があるのか。
単純に考えれば、奴隷にする、人体実験のモルモットにするなど、非人道的行為の為に連れ去ったと見る事もできるけどね。
どうにも、そうじゃないんだろうという気がする。ただの勘だけど。
たぶん、この事件を追わせることが必要じゃないかと、そう思うのだ。