24-7 夫婦喧嘩
それ以降も防衛用の施設を充実させ、ちょっとしたネタ設備を作っておくよう指示を出し、家に戻ると、夏鈴がなぜか家の前で仁王立ちしていた。
「旦那様。確かに働くようにとお願いしましたが、そのまま10日も外泊するのは、どうかと思うのですよ?」
「待った。連絡しようにも、家に入れてもらえなかったじゃないか。伝言は頼んだぞ」
仕事という事で、数日間家を空けたのが拙かったらしい。
国をまたいでの仕事のため、どうしても外泊は必要だった。
だから先に話をするために家へと戻り、直接顔を合わせて説明したかったのだが、それを出来なくしていたのは夏鈴である。あの日は家に鍵をかけられていたのだ。
まぁ、鍵は俺も持っていたし、入ることは可能だった。
それでも締め出したのは会いたくないという夏鈴の意思表示であり、しばらく距離を開けた方が良いと判断した。
なので、護衛に簡単な伝言を頼み、何かあるなら連絡するようお願いしておいた。
行き先は伝えたので、人を使って一言声をかけてくれればよかったのではないかと思う訳だ。
俺が「連絡をくれればよかったのでは?」と言うと、夏鈴は顔を真っ赤にして怒った。
が、それ以上に感情が不安定なのか、ポロポロと大粒の涙を流し始めた。
「違うんです! どうして分かってくれないんですか!」
いつもと様子が違う、論理的な考えができなくなった夏鈴を見たのは初めてである。
驚いた俺はすすり泣く夏鈴をどう扱えばいいかわからず、呆然と立ち尽くし、護衛に言って夏鈴を部屋に戻すのにも時間をかけてしまうのだった。
これは後で聞いた話だが、俺が村の外に出て数日戻らないと聞いた夏鈴はパニックに陥ったという。
働きに、外に出てほしいとは思ったが、その日のうちに戻ってくるとしか考えていなかったのだ。
愛想をつかされた。そんな妄想をしてしまい、俺が帰ってきたと聞くまで、脱け殻のようだったそうだ。
手紙を出す、伝令を送るといった判断は、真実を知るのが怖くてできなかったのだ。
そこは信用してほしかったが、駄目だったようである。
なにしろ、夏鈴とはこれまでずっと一緒で、何日も離れたのはこれが初めてだからだ。
これまでの別行動は、こちらに来た当初、大垣で捕まった時である。……何年前だ? 7年ぐらいの話である。もうほとんど覚えていないのだ。
冷静さを維持できなくなって、動くに動けず、戻ってきた俺は飄々としていて、感情が爆発したのだ。
頭では言うべき事が分かっていても、感情が邪魔してどうにもならなかった。
正しい思考ができなくて、感情任せに叫んでしまった。
そして、また落ち込み考えは悪い方に落ちていく。
「ちゃんと考えれば、村の外にしか仕事がないことには気が付けたはずだけど。
そこも含め、仕方がないんだろうね」
「いえ、創様も極端から極端に走ったと思いますよ?」
「そうか?」
なお、俺が10日ほど村を離れたのは、事前に、それこそ家から出なくなる前に、30日分のまとめて仕事を終わらせていたからだ。
長期出張用の行動計画で、やることを終わらせてあったのだ。
途中で計画変更をするのは良くないから、仕事をするなら国の外に行くしかなかったのである。
戻ってきたのも、その計画に合わせて、なのだ。
「夏鈴様は、もう自分は要らないのかと泣いていました」
「……考えすぎだろ」
ちょっと面倒だと思った俺は、きっと悪い夫なんだろうな。