24-1 授かりもの①
俺の日課の中に、カードの状態確認というのがある。
幽暗の大蛇は何らかの手段で人間をドールに変えるため、毎日確認しないと落ち着かないのだ。
可能なら何かされたら自動で伝えてくれる機能でも欲しい所だが、今のところ、そういった能力の成長は無い。自分の目で確認しないと駄目だ。
確認するのは召喚中のモンスターやヒューマンのカードのみなので、枚数も大した事ではなく、5分とかからない簡単なお仕事だ。
だけど人任せにはできない事なので、自分一人でテキスト部分を流し読みする。
そうやってカードを確認していた時の事だった。
一枚のカードに、昨日までなかった一文が付け加えられているのを見付けた。
「夏鈴! 夏鈴ーー!!」
夏鈴のカード。その末尾に「妊娠している」と書かれていた。
俺と夏鈴がそういう関係になったのはおよそ2年ほど前の話。水無瀬少年を仙台まで連れて行った後の話だ。
すでにそれだけの時間が経っている。
子供は天からの授かりもの。
出来る・出来ないの話は努力だけでどうにかなる話ではなく、ある程度運の要素が絡むと思う。
どちらかが体質的に子供を授かりにくい、そういった可能性も有ったが、どうやらそんなことは無かったようだ。
特に夏鈴は、妊娠していない事をもの凄く気に病んでいて、妊娠の件についてはどこか自分を追い詰めている雰囲気もあったので、これで一安心だ。
「わ、わた、し、子供、う、うぁ、あぁ……」
妊娠したと知った時、夏鈴は泣いて上手く喋れず、感極まったからか、そのまま意識を失った。
普段から俺のサポートをしている夏鈴が機能不全に陥ったが、周囲は驚きはしたものの、慶事なので細かい事は気にしない。めでたい事だと、祝福された。
仕事なんてしている暇は無いとばかりに、みんなでお祝いの準備を始め出した。
俺も、止める気は無い。
「それで! 出産はいつ頃なんだ!?」
誰かが俺に、そんなことを聞いた。
そうだな。確かにそれは気になるよな。
「半年後、春先だよ」
「そうか! 産まれたら、またお祝いだな!!」
それを聞いた誰かは違和感無く受け止めたが、一部の連中は動きを止めた。本当に妊娠したのかと言う視線をこちらに向ける。
視線を向けたのは、ゴブニュートの生態に関する知識を持っている連中。
ゴブニュートの妊娠期間は人間よりも短く、おおよそ半年。
夏鈴は妊娠一日目である。