0-4 現状把握/カード強化
ようやくゆっくり座って休めるようになったので、一度自分の状況を整理することにした。
俺はいま、自分の名前を思い出せない。
で、細かい事はよく分からないけど、手元にあった『カード』の扱い方だけ、何となく理解できている。
俺はカードを作り、扱い、強化し、増やし、進化させることが出来る。
☆の少ないカードの方が早くレベルが上がることを俺は知っている。
俺は『リンゴ』のカードを手に取ると、カードに魔力を注ぎ込む。
するとカードの経験値ゲージが満タンになり、レベルが上がることを繰り返す。それを9回。
レベル1だった『リンゴ』はレベル10になった。
これで俺の魔力は9割がた使い切った。
レベル10がひとつ目の区切りであり、次はレベル16まで成長させないといけない。
しかし、レベル10からレベル16までの必要魔力は1から9まで上げた時のおおよそ2倍。レベル16を目指したければ明日どころか明後日まで同じ事をしないとダメだ。今は10で満足しておく。
レベル10で出来るのは、カードの強化。
カードに指定した付加価値を付けることが出来る。
リンゴ、つまり果物の強化であれば「大きさ」「甘さ(味)」「栄養価」「鮮度」の強化を思いつく。あとはカード共通の強化事項として、消費魔力を減らしたりリキャストタイムを短縮するかだな。
とりあえず味を良くするところから始めよう。
リンゴ(10):アイテム:☆:極小:12時間
酸っぱいリンゴ。空腹をわずかに満たし、渇きをわずかに癒す。
これが、こう。
リンゴ+1(1):アイテム:☆:極小:12時間
少し甘く、酸っぱいリンゴ。空腹をわずかに満たし、渇きをわずかに癒す。
リンゴの後ろに「+1」と付いて、フレーバーテキストに「少し甘く」と書かれるようになった。
そしてレベルはリセットされる、と。
まぁ、こんなものだろう。
どうせなら、「食べると傷が回復する」とかそういった効果を付けれないか試してみたが、そういう事はできないようだ。
推測だけど、カードの☆が足りない。格が低い食料品にそんな付加価値は付けられないのだろう。
あと、二個に増やすと言った事もできなかった。こっちは絶対に無理という感じだ。仕方が無いね。
どうせだからと、『リンゴ』を≪マテリアライズ≫してそのまま皮ごと齧ってみる。
うん。甘さよりも酸っぱさの方が強いな。これはこれで有りなのかな? 瑞々しいけど水が欲しくなるね。
お。
リンゴを齧っていた俺だけど、ふと視線を感じると、その先にはゴブリンがいた。
俺というより、リンゴを見ている。どうやらリンゴを食いたいらしい。それでも主人の迷惑にならないように黙っているあたり、よく訓練されていると言ってあげよう。視線はものすごく物欲しそうだったけど。
『リンゴ』のカードは一枚しかない。
しょうがないので、食べかけのリンゴを手渡した。
「キィ~」
嬉しそうな声を上げ、ゴブリンはリンゴを食べだした。
あ、こいつ芯まで食ってるよ。
勢いよくリンゴに食らいついたゴブリンは、ヘタの部分以外を全部食べ切った。とても満足そうな顔をしている。
ちょっと和んだ。