23-25 ガソリン復活②
「技術そのものを渡すことは問題無いのですけれど。
ですが、渡したあとに騒ぐ愚物が出てくるのですよ」
そうやって苦々しげに言うのが、尾張の国の村河さん。
いや、過去に何かあったのか、苦々しいと言うよりも、忌々しいといった雰囲気だ。
その様子に、周囲の人達も似たような表情をしている。
「こちらからは善意で技術を提供したというのに、その技術を用いて作った何かでトラブルがあると、鬼の首を取ったように騒ぎ、こちらの責任を追及してくるのです。
“技術に欠陥があった”“欠陥があって、わざとそれを教えなかった”“責任を取れ、賠償をしろ”とね。
――ふざけるな!!」
思い出したことで怒りが再燃したのだろう。村河さんは机に拳を打ち付けた。
どうやら、その件は円満解決と言わず不本意な結果になったようだ。
「なお、教えなかった場合は、それはそれで騒ぐでしょうね。“自分たちだけ良ければそれでいいのか”と言って。
そして技術を勝手に盗み出し、自爆して、“お前らが教えなかったからこうなったんだ、責任を取れ”と言い出すでしょう。
――さすがにこの言い分を認める者などいないですが」
今度は、どこか昏い笑顔を見せた村河さん。
ああ、やり返したんだな、と思う。
「ガソリンは燃えやすい物、と聞いています。ならば、教えた場合は大火事でも起こし、何百人も死者を出し、その責任を追及してくるでしょうね。
平和裏に終わる可能性ですか? ふむ……百面体の賽の目を、1万回振って、全て同じ数字を出すよりも難しいでしょう」
人、それを不可能と言う。
100の1万乗って、桁数が2万と1なんですけど。
「実際の問題として、こちらでも火災を起こす危険性が高いのではないかと、危惧しています。
最低限ではなく、ちゃんとした防災回りが出来てからではないと、各地で火災を起こすことが想定されます。教える側が、まずは運用実績を作ることこそ、肝要かと愚考する次第です」
村河さんはそう締めくくった。
確かに、こちらでは飛行船が火災を起こしている。
ガソリンが原因で火災が起きても不思議ではない。
つまり、だ。
ガソリン火災が起きたあとのノウハウができるまで、他の国には教えないという立場を貫いた方が、何かと都合が良いようだ。
教える側にも知識が必要と、そういう事である。
共同開発者になるつもりは一切無いらしい。
「共同開発者であれば、あたかも自身がリーダーであるかのように振る舞い、その権利を一手に奪うでしょうね」
完全に強盗か何かのような生き物が、近隣には居るらしい。
しかも、国の指導者かその部下として。
付き合いは絶対に持ちたくない種類の生き物である。
「そうですね。奴らの本拠地は、伊勢の一画を実効支配している海外のならず者の生き残りなので、本来であれば関わりを持つ理由はありません。
街道の類は全て潰し、出入り禁止にしているにも関わらず、勝手にこちらへ出入りしている状態です。
かつての私のように、話し合いができると信じ、仏心を出して関わり合いになるのは避けるべきでしょう」
……いくつか腑に落ちない部分はあったけど、周囲へ教えるのは止めておいた方がいい、と。
ここは納得しておくべきだろうな。
そこまで厄介なのが居るのであれば、否はない。
そして村河さん。
そんな連中を統治に組み込む為にやり合っていたのか。
駒にしようとしただけかもしれないが、無駄骨を折った訳だし、大変だっただろうな。
俺は、もうちょっと大人しく生きよう。