23-15 革命しない手段
「旦那様は、革命に対しあまり良い感情を持っていないんですね」
「そりゃそうだ。結局は、暴力で人を従えようとしてるって話だから。嫌悪感を抱く方が普通だろう。
イギリスの清教徒革命ならともかく、フランス革命なんて、後半がグダグダすぎて全く笑えん。やらなきゃいけない状況だったのは理解できるけど、ああいうのは嫌いだな」
意外と知られていない話だが、フランス革命でギロチンにかけられた国王ルイ16世は、どちらかと言えば革命を起こそうとした側である。聖職者や貴族に税金の義務を課そうとしていた。
当時は貴族の議会と聖職者が無駄に権力を有しており、それをどうにかするためにルイ16世は改革をしようとしていたのだが、力及ばずに改革は失敗。
もう王様に任せておけないと革命家が立ち上がったのだが、革命後も良くならない政情に不満を抱いた市民の不満を逸らすためにルイ16世は殺されたのだ。その前の裁判で国王がフランス政府と議会を裏切っていた証拠が見つかったとされているが、本当かどうか怪しいものである。
結局、とりあえずの人気取りに目立つ誰かをギロチンで殺して誤魔化そうとしても「恐怖政治には従えない」「暴君を倒せ」とまた革命が起きて、80年もの間、ナポレオンが頑張るまでフランスはグダグダを続けたのだ。
付け加えると、フランス革命は「ムカついたから殴る」の精神で「殴る」事に固執し、王政を打破する事が手段でしかない事を忘れてしまった。市民が人間らしく生きられる社会を作ろうとする目的が、建前に成り下がった。
「民衆の生活を良くしよう」よりも、革命家の「俺の考えた最高な国家」や「旧体制の完全否定」に固執した痕跡が多々ある。時間を、今の60秒・60分・24時間ではなく、100秒・100分・10時間に変えようとするとか。
個人的には、そんなどうでもいい事に頭を使う時間があるなら、革命で荒れた農地を再生する手段を考えろと思う。
対する清教徒革命は長く見ても20年ちょい、実質10年かけずに終わっている。
大陸国家であるフランスと、島国であるイギリスの差と言えば、それはそうなんだろう。
こっちの革命は王政打破ではなく、財政健全化、市民の権利拡大を行動目標とし、それがぶれなかった事が成功の要因であると思う。処刑による誤魔化しなんかしていない。
正しく改革に着手し、多くの民衆がちゃんと実利を実感できたんだろうな。
ただ、その中でアイルランドはわりを食って、民衆は殺され土地を奪われている。
それが300年後にも火種になっている事からも、暴力的で短絡的な行動は長期的な不安要素となり、ハイリスクとよく分かる。
最初の理念はともかく、恐怖で人を支配する事を当たり前としてしまったフランス革命を見る限り、キチンと考えて行動をするのは大事だとよく分かる。
統治を武力・暴力に依存すれば組織運営などできないし、そもそも根回しをきちんとしていない場当たり的な行動でそれをすれば破綻するのは当たり前。
あと、革命を扇動する事は簡単だけど、それが終わった後に暴徒と化した民衆を鎮圧するのは大変だと覚悟を持たなきゃいけない。
そう考えると、革命まではせずに、暴力を用いた改革で済ませる方が楽だし、混乱も少ない。それが圧政をしていた奴でも、前任者から引き継いだ方がスマートだ。
その後、「枠組みを壊すようなやり方をしてはいけない」などという制限も実は無いわけだし。
負の遺産も引き継ぐが、それをどうにかする方法を取ってもらいたいものだ。
「旦那様なら、どうしました?」
「カードでゴリ押し。カード無しなら、評議会の支配から脱却した、三河みたいな自治権獲得を目指すよ。
本当に北海道の政府が駄目なら、他の地域も賛同する。味方は増える。
北海道の政府がまともなら孤立して詰むけど、自分が正しいと思うなら、それでなんとかなるって考えるよ」
フランス革命の時は、革命しなければ変わらない、周囲から理解を得られないという事情もあった。
けど、今は近代ではないし、ここはフランスじゃない。
革命なんて手段を選ぶ理由もないのだ。