23-12 自分の訓練
俺の嫌な予感を全面的に信じている仲間達は、それこそ死ぬことになっても生き返れるから、強くあろうと努力する。
カードの経験値に反映されずとも、普通の生き物同様、鍛えれば鍛えた分だけ強くなることができるので、無茶な特訓を繰り返す。
俺としてはそこまでしなくとも、そんなふうに思ったりするのだが、どうにも強く言い切れない。
すべては生き延びる為、なんだよな。
そうやって特訓をしている軍のカードの内、付き合いの長い『ワクチンオーク魔法軍』『ワクチンオーク鉄壁軍』の2枚は、すでに5回強化済み。
それぞれ魔力関係と生命力関係を中心に能力を伸ばしている。
この2枚は☆4つのカードなので、進化までに10回は強化できるから、そこまで強化しきるつもりでいる。
軍のカードは強化による能力の伸び率が悪いから、最大強化をしてから進化させる予定である。
魔力を優先的に回せば数日で済むんだけど、本人らが「普通に強くなるので、その時が来るまでしばらくお待ちください」と言うので、自然に貯まった経験値だけで成長させている。
総合的に見れば、その方が進化した時の成長倍率が高くなるし、選択の幅が広がる。
努力は人を裏切らない。
届かないことはあっても、足りないことはあっても、裏切ることだけは、無い。
ゆえに信じ、積み重ねるだけだ。
雨にも負けず、風にも負けず、冬となって雪が降ろうが、それでも彼らの調練の日々は続く。
俺もカードの強化だけでなく、いざという時の為に、とっさの判断力を養うような戦闘訓練をしている。
俺が敵から本格的に攻められるような状況になったら、その段階で負けなのかもしれないが、そんな時に俺が生き残る、逃げ切る為の訓練だ。
俺を守るチームと、その倍以上の追い詰める為のチームに分かれ、俺が逃げきったら俺たちの勝利、俺が捕まったら負けというゲームだ。
細かいシチュエーションは参加しない夏鈴任せ。
お互いがそれぞれ用意された場所に待機し、凛音が魔法で合図をしたら状況を開始する。
「オーディン! 周辺警戒! 迎撃しろ!」
今回は味方にオーディンがいる。
しかも、すぐ近くに。
普段であれば頼もしい状況だが、ゲーム中は最悪に等しい状況である。
だって、敵はそれをどうにかする戦力を、間違いなく揃えているのだから。
その判断は当たっていて、草原大狼の群れが1組、俺たちを襲う。
似たような状況、最初の方は何も考えずオーディンの背に乗って逃げたのだが、それをすると、高確率で包囲網の先にある罠に引っかけられる。
こちらの心理を誘導して、もっとも警戒が薄いところと、もっとも警戒しているところの先に罠があったのだ。
その後もこちらの行動を誘導され、何度も罠に引っかかったので、今では警戒を優先し、仲間との合流を待つことが正解という結論に至っている。
双方に大狼がいる戦場では刺激臭系の道具を使えず、かと言って今、オーディンがやられればその時点でこちらの負けが決まる。
必要なのは時間稼ぎの手段で、その為の道具を正しく選ぶ。
俺はオーディンと背中合わせになるよう動き、“それ”を背中越しに使う。
打ち合わせはしていないが、フラッシュグレネードが俺の後頭部近くで炸裂した。
閃光を放つフラッシュグレネードを直視した大狼らは無力化され、ついでに至近距離でグレネードを使った俺は、その爆発に後頭部を殴られたような状態となり、思わず前のめりになる。
それでも何とか倒れないように堪えきり、オーディンの背に乗る。
多少の時間稼ぎをしたが、多勢に無勢。他所は近くに来た仲間の匂いを嗅ぎ取らせ、敵を迂回しつつも、急ぎそちらに向かう。
だが。
「チェック、だよ~」
匂いを嗅ぎ取れなくした莉奈が移動ルートに隠れており、あっさりと俺たちは捕まる。
落とし穴からの捕縛網により、木の上に吊されて身動きできなくなった。
「夏鈴ちゃんの予想がまた当たったよ~」
莉奈のすぐあと、魔槍部隊が駆け付けて状況終了。
訓練は、厳しいぐらいでちょうど良いと思うけど。
俺が大きな怪我をしないように配慮されているけど。
割と、ボコボコにされています。だいたい負けているんだよな。
悔しいなぁ。たまには勝ちたい。