23-10 旅立つ船に、手を振る俺
北海道方面に、船で人を送り込む。
死んでくれと言っているのとあまり変わらない、かなり酷い話だ。
普段であれば仲間が死ぬような目に遭うのを避けるんだけどな。
それでも今回は特別というか、“そうしなければいけない”という謎の焦燥感に従い、悪いとは思いつつも、送り出す事にした。
「1ヶ月経ったら、カードに戻す。いいね、1ヶ月間だ。その間だけ、そちらの判断で生き延びて欲しい」
「いや、死んでも復活できるでしょう? 大丈夫ですよ」
「そういう問題じゃないんだよ。それに、死んだら記憶が飛ぶだろう? 俺の為にも絶対に生き残るように。
現地の判断が最優先だ。こちらの都合とか考えなくても良いし、自分が最善と思う手段を選ぶように」
下忍衆、上忍、魔術部隊と魔剣部隊。合計36人。
彼らには回復薬の他、スタンではないグレネードをはじめ、こちらの出せるかなり強力な装備も渡しておいた。
それらを活用し、戦い、生き抜いて欲しい。
なお、今回の指揮官として『上忍』を用意した。
忍者の正式な区分がどうなっているかは知らないけど、『下忍』が情報収集担当、『中忍』は戦闘担当、『上忍』はそんな彼らの指揮官である。『ストラジスト』である夏鈴と同系統のジョブである。
夏鈴が「統合大戦略」的な思考をするのに対し、上忍は「情報戦略」を担当するイメージだ。
『中忍』は戦力バランスの関係で今回は参戦させないが、上手く立ち回って欲しい。
今回は静岡県、遠江の国。
甲鉄艦に「大和」、上忍に「五代」と名付けるなど、少々のお遊びをしつつも、その船出を見送る。
期限は1年ではなく1ヶ月だけど、ワープ航法ならぬ≪送還≫航法はあるので、また来月には無事な姿を見せてくれることを願う。
嫌な話だけど、死んで記憶が欠損するのはまだマシなんだよな。
拷問などを受けて、下手にその記憶が記憶に残ると、人格が大いに歪む。
そうなると、本当に死んでしまった方がマシって事態も、世の中にはあるんだよ。
そんな可能性がある場所に人を送り込んだという負い目がある為、少々でいいからふざけないと、ちょっとキツい。
嫌な予感に囚われるというのはこれまでの人生でもかなりレアな体験だが、無視してはいけないのがなんとなく分かる。
本当に、この手の予感を無視すると、死ぬ。本能的な感覚だけど、間違いないっていう確信があるんだよね。
なので、情報収集をしつつも、戦力強化を引き続き頑張らないといけない。
今はまだ表に出す気は無いけど、『ゴブニュート軍』のカードを準備している。
軍のカードが『ゴブニュート・ジェネラル』でアンロックできることは、オークの時に学んでいる。
そうやって大兵力をいつでも動員できるようにしておかないと、現状は危うい。
推測したとおり、北で内乱、人間同士の戦争をしているとなると、どんな影響が出るとも分からない。
南の内乱、尾張の国の分割は村河さん、内通者のおかげで早々に終結したからいいけど、そうでなければ今後何年も血で血を洗う抗争となる。
美濃の国から北海道と距離が空いているので、自分たちにどんな形で関わってくるかは分からない。
俺が巻き込まれるかもしれないという嫌な予感はするけど、その内容は想像できていない。
俺は自分にできることを、一つ一つ増やしていくだけだ。
――不安は、消えない。