23-5 甲鉄艦⑤
仙台市の甲鉄艦は、大型で重い船を動かすために蒸気機関を搭載していた。
ただしスクリューなどではなく、最も仕組みの簡単なポンポン船であった。
仕組みが簡単とは言え、強度と重量のバランスなどは試行錯誤の結果であり、小さく軽くするのと、高出力で壊れないぐらい頑丈にするのは簡単ではない。
仕組みは簡単だが、作るのと運用するのは難しいのである。
なお、ポンポン船は、基本的に小さい。
そのポンポン船に使われる蒸気機関の技術を大型船に適用したところで、普通に出力が足りない。
メインの動力は帆に受ける風であり、この甲鉄艦はパッと見ただけでは帆船に見える。
この船を改良するのに、スクリューとか、そういった船外機の増設を思いつきはするが、実行はそうとうどころか、シャレにならないぐらい難しいだろう。
取付スペース、制御用の電子機器、あと、動力となる発電機。これらを用意しないといけない。
一番の問題は、やっぱり電子機器である。真空管から先はまだ作れないので、作ろうとするのは無謀でしかなく、妄想の類である。
よって、もっと現実的な改良、改善を考えた方がいい。
まず、装甲の素材を変えるとか、そういった改良をできないと言わないが、やりたくないので、パスする。
全長100m級の船、1隻分の装甲を用意する気にはならないからだ。
出所を怪しまれるし、リスクが大きすぎる。
帆の張り方とかも、相手の方がプロなので、アドバイス出来ることが無い。
そんなわけで、いま出来そうなのは、装甲に塗る塗装材を用意するぐらいだ。
船体用ではないけれど、金属の耐候性を高める塗料なら、こちらが用意できても不自然ではない。屋外で使う金属なんて、釘をはじめ、どこにでもあるからだ。
いきなりこの場で取り出すわけにもいかないので、手紙を送り、数日後に運ばせるという体裁をとることになった。
実際の効果を調べるのに、また数日かけるだろう。
貰ってすぐに試すほど、相手もバカではないだろうし、こちらへの信用とは別に、自分達の作った塗料と比較するだろうさ。
それで一応、こちらが教えてもらった船の情報に対する義理は果たせる。
本当は俺が裏で、カードを強化してちょいちょいっと作るなどとは教えない。
仲良くするけど、それはそれ、だ。
今のところ、外部に情報は漏らしていない。
あとは鉄の生産量を増やすための手伝いで、炉を設置する間に、北海道に送り込む人員を用意しないとな。
死地になりかねないから、カードのままで運用するとして、下忍衆と、戦闘用の部隊を一つ……二つかな? そのぐらいは送り込まないとダメだろう。
今は秋も中頃だが、現地に着く頃には寒さも厳しくなるだろう。
耐寒用の装備も渡さないと不味いかな?