23-3 甲鉄艦③
相手がこちらの意を酌んでくれると、こちらも相手の意を酌んだ方が良いような気になってしまう。
強気に出て、無理やりこちらを従わせようとするなら反発するんだけどね。
北風と太陽の話のような古典的な手段で、それが相手の狙いかもしれないと思うけど、分かっていてもつい助けたくなってしまう。
一応、交渉に使えるかもと思い、護衛とは別に魔術部隊を一つ用意して連れてきた。
彼らに仕事を任せるかどうかはまだ考案中。
こちらから言い出すというのも、少しだけ躊躇われるんだよね。
仙台市での情報収集は人任せにして、俺は黒岩の里に移動した。
そちらで視察をするという名目で、温泉を楽しんでいく。対外的にはそう見られるように動いた。
「創様。本日集まった情報になります」
「ああ。ありがとう」
実際は、仙台市に残してきた人員が情報収集に励んでいる。
夜になると、非正規な手段で仙台市に潜り込ませた下忍衆が俺の所に情報を持ってきた。
下忍とは言え、情報収集で言えば、他の忍びよりも上のプロである。
彼らから得られる情報は信用できる。
「夏鈴。やっぱり、一番工房の連中が作っていたのは武器とからしいよ」
「隠れて作っていたのは、やはり市民を不安にさせない為でしょうね」
俺たちは、下忍衆がまとめてきた情報に目を通す。
そこには甲鉄艦のもたらした交易品、それが市場に与えた影響などがまとめられていた。
北海道の生産品、交易品が持ち込まれた事で仙台市は活気づいている。
ただ交易ができたというより、甲鉄艦という仙台市の威信にかけて行われた事業が成功したという事実も手伝い、ご祝儀的な盛り上がりではある。
しかし、そのおかげで市場に流れた交易品の様子は分かりやすくなっており、調べる事は容易だったようだ。
一般の品に関しては民衆から、貴重品に関してはそれを自慢する金持ちから、すぐに情報が集まった。
もちろん、表に出て来ない物品はあっただろうが、そこから推測される人と物の流れ、持ち出し量と受け入れ量のギャップが浮かび上がってくる。
あとは仙台市が積み込んだ物の情報を集め、下忍衆が色々と頑張った結果、一番工房の武器防具説が有力な候補となった。
武器とかを積み込んだ情報は無いけど、使われた鉄の量と、情報の隠蔽具合、その他からそれしかないと結論付けられていた。
「北海道はそれだけモンスターの攻勢が激しい、ではないよな。
人間同士の戦争か?」
「そうですね。モンスターが相手であれば隠す理由がありません。
不届き者はどこにでもいますから、きっと内乱のようなものでしょう」
人間同士で戦っている余裕がない事と、人間同士が争わない事とは違うのだ。
余裕があるから内乱を起こすのではなく、ただ獣のように、自分勝手な理由で争う事があるのも人間だ。理屈ではなく、自身の欲を優先する屑はどこにでもいる。
もしかしたらこの推測が外れているかもしれないが、俺は間違っていないという気がする。
こんなときの俺の予感は、残念なことによく当たるのだ。