22-16 灰より生まれる①
しばらく灰の研究で煮詰まっていると、莉奈が鉢植えを1つ、持ってきた。
「創様、こんなのできたよ」
「は? いや、これ、土じゃなくて灰で育ててるのか?」
「そうだよー」
莉奈には時々だが失敗作となる灰を渡していた。
それで何か育てるとは聞いていた。
しかし、俺は土に混ぜて使う物だと思っていたので、土ではなく灰で育つような植物を持って来られ、思わず変な声を上げた。
「すまん説明してもらっていいか?」
「はーい。任せて」
莉奈は、莉奈なりに灰の活用方法を考えていた。
そこで、自分の思いついた植物を育てる能力を活かし、灰を土壌として育つ植物を思いついたらしい。
流石に莉奈でもすぐにそんな植物を作れるわけではなく、何度も試行錯誤を繰り返したが、それが上手くいったので見せに来たのだ。
「えっとね、食べれるのが良いかなって、美味しいお芋さん!」
「マジか……」
莉奈は灰で育てる、食用に足るジャガイモを作っていた。
細かい事を言いだすと、灰だけでは育たないらしい。
土を僅かに混ぜる事、育てる途中で専用の薬液を何度か使用した事など、それなりに制約はあるようだ。
しかし、美味しく栄養価の高い芋を育てられるよう、莉奈は品種改良をしていた。
……試行錯誤の半分以上は、その「美味しさ」の為だったというのは、ツッコミどころだろうか?
「ところで、これを育てるのに使うのは、普通の灰でいいのか? 聖灰……は鍛冶師か。これは回復用の灰を使うのか?」
「違うよ? 普通の灰、だよ」
「そうか。それなら、灰を使った芋の栽培を始めるのも良いな」
莉奈は、村で灰を集め、この芋を育てていたらしい。
そして持っていった灰は別の植物を育てる肥料として使っているという。
「そっちはね、回復薬の薬草を育てるのに使ったの。前より良く育つようになったよ!」
「あー。そうだな。相性は良さそうだ」
俺は苦笑いしながら莉奈の頭を撫でた。
莉奈は幼い子供のような笑顔を浮かべ、大人しく撫でられている。
……成果を出した莉奈の頭を撫でる俺の心中は、複雑である。
結果を出した莉奈に対し、未だ結果が出ない俺。
灰で育てるジャガイモという結果を出したのみならず、「味」というその先の品種改良までした莉奈に、俺は僅かな嫉妬を抱いていた。
我ながら、心が狭くて嫌になる。
ジャガイモは簡単手軽に、ベイクドポテト、芋の丸焼きにして食べた。
この料理は単純で、今回は灰の中に芋を入れ、その灰の上でたき火をするという方法をとった。
普通はオーブンで焼くのだが、今回は灰焼きである。
灰は断熱材になるが、それを利用した調理法だ。
灰の中にジャガイモを入れた事で、熱がゆっくりと伝わり、時間はかかるが中までホクホクに焼くことができる。
下処理は芽をとって皮はそのまま。あとは何もしない。
そして2時間ぐらい火を絶やさないようにした。
味付けは塩と胡椒、お好みでバター醤油を使う。
「シンプルな方が美味く感じるよな」
「美味しいですね」
せっかくなので、みんなでたき火を囲み、ベイクドポテトを食べる。
ツマミと言うか、芋だけでは足りないので、チーズやベーコンも一緒に焼いているよ。
「美味いけど、口の中が渇くな。酒が美味い」
「ベーコン、美味しー」
みんな自由に食事をする。
そんな中で、誰かがふと、一言漏らした。
「灰を使ってこんな美味しい芋が育つなんて、不思議よね」