22-3 増える選択肢
捕食封印の仕様は分かった。
一回は大蛇に通用したので、これは実用性の面で、ある程度の信頼もできる。
だが、大蛇が悪さをしている現状を顧みると、確実な手段ではないと断言できるし、決定打にはならないと思う。
「創様なら、錬をカードに戻して処分してお終い?」
「そんなことは、したくない。俺は死ぬ前に、カードモンスターを全部解放したいからね」
凛音は、誰かの体に封印したなら、封印した誰かをそのまま俺がカードに戻してしまえば良いと、簡単に言う。
俺は、甘い考えだと思うけど、それはしたくないと思っている。
まぁ、大人のタイラントボアとかを解放したら大惨事になるから、そこは何か考えないといけないけどさ、それ以外は解放するよ。
「なら、強化で誤魔化して、進化で確実に消す」
「……それなら、現実的かな」
俺の意志が固いかどうかは横に置き、自分の意見に反対された凛音は、次の提案をする。
カード強化による錬のスペック底上げ、進化による変化を上手く使えば良いのではないかと、そう言っている。
こちらの手段は一考の余地があるだろう。
何も試さずにいるのなら問題が出るかもしれないが、今のうちに試す事はできる。
ちょうど、錬はタイラントボアを食べたばかりだ。今、カードを進化させたらどうなるかを試そう。
「ん。じゃ、また今度」
錬を一度カードに戻し、そのままカードを強化しようとするが、☆4つが相手なので魔力が足りず、強化は明日以降に持ち越しとなった。
『ゴブニュート・シーラー』:モンスター:☆☆☆☆:小:10日
ゴブニュート・シーラーを1体召喚する。シーラーは封印魔法を専門とする、魔法職である。
現在使用可能なのは、『捕食封印魔法』のみである。
※現在、タイラントボアの未熟児を捕食封印中(0%)
カードのテキストを確認すると、封印しているモンスターの名前と、消化状態が追記されていた。
いいね。分かりやすい。
ここから強化や進化でどうなるか、不謹慎だけど楽しみだ。
新しいカードとか、ワクワクするよね。これまでにない方向性なら、尚更だ。
リキャストタイムの都合上、次の召喚は10日後になる。それまでに色々と考えておこう。
……最悪な結果だったら、どうしようかね?
そういった可能性も、少しは考えないといけないよな。
俺が先の予定を組んでいると、まだ近くにいた凛音が俺の服を引っ張った。
「創様。私も補食封印、使いたい。
私なら、直ぐに結果が出るよ」
そして、扱いに困るおねだりをしてきた。
凛音は古株であり、限界まで強化したけど容姿の都合で進化させておらず、経験値を余らせている。
合成に必要な経験値を消費しても、進化までさせることができる。
だが、合成や進化させることには容姿改変のリスクが伴い、二の足を踏んでしまう。
凛音は特に人との関わりが多いので、大きくなくても、変化があれば誰かが必ず気がつく。
「……ダメ?」
「うぐっ」
上目遣いで、凛音が俺を見る。
潤んだ瞳に思わず「いいよ」と言いそうになったけど、なんとか堪える。
色仕掛けに引っ掛かったら、夏鈴になんと言えばいいのか。そう思えば耐えられる。
「また今度、錬に習うのでは、ダメか?」
耐えるだけでは話は終わらない。
俺は代案を出すことで逃げ切ろうとする。
だけど、凛音は納得しなかった。
「経験値は余ってる。なら、たまには使いたい」
別の理由、貯まりすぎた経験値を理由に、さらに迫ってくる。
こういった強引なおねだりはこれまでされたことがなく、しばらく悩み、問題を先送りにする事にした。
「夕飯の時に、みんなで話し合おう。他の二人の許可が出たら、いいよ」
こうして、俺が折れることとなった。