21-24 暴君・暴論への拒否反応
「おかえりー」
出雲の国まで行って帰って、約10日。
そんな俺たちを出迎えたのは、莉奈だった。
莉奈は村で仕事をしている事が多いので、彼女が出迎えに来たのは順当だろう。
以前のように、凛音が居る事の方が珍しいのだ。
莉奈を見ると、たくさんの薬草が入った籠を背負い、仕事の途中といった風体である。
いつものように働き、いつものように生きる。
日常が、そこにはあった。
「ただいま」
「ただいま、莉奈」
だから俺たちは、笑顔でただいまと言った。
その数日後。
俺は大垣で、署長さんとお茶をしていた。
近所でよく飲まれている、柿の葉茶だ。独特の苦みがあるので、俺は薄めにして飲んでいる。
俺は出雲で何があったのかを話すと、署長さんは難しい顔をした。
「軍がそういった蛮行をしているとなると、出雲の国は危ういですね。美濃の国の人間が酷い目に遭ったのです。こちらからも抗議の書簡を送るとしましょう」
「え? 俺、自治領の領主って扱いのはずですが」
「対外的には美濃の国の一部ですよ。ただ、独立自治をしているというだけです」
署長さんは出雲の国のやった事に、憤りを感じているようだ。
だけどそれ以上に俺が驚かされたのは、何か署長さんが、サラリととんでもない事を言ったからだ。
なんか、外堀を埋められていないか?
それはさておき、と、署長さんはこの話を無理やり流した。
「実際、軍がそういった暴挙に出た場合、国の内外で不満が噴出します。
日本海側の国は確かにモンスターから国々を守る盾の役割を強いられていますが、それ相応の見返りを受けていますし、暴力や権力による圧政は必ず破綻します。それはこれまでにも同じような事があったから確実と言えるでしょうね。
いったい、何を考えているのでしょうね」
署長さんの話では、「自分たちが体を張って守っているのだから、こっちの言う事を聞け」という連中は、これまで何度も出て来たらしい。
しかし、出てくるたびに、わりと早い段階で制圧か、排除をされる。
暴論を振りかざすような連中に守ってもらいたくないというのが、この世界に生きる人の一般的な考えだからだ。
あまり表に出ていない話だが、数年前に越前の国にも英雄がいたけど、あまりにも増長し過ぎたために排除されたらしい。
その結果、タイラントボアの侵入やディズ・オークによる国の占拠まであったのだが、それでも暴君に守ってもらうよりはマシだという。
多くの国が出血を強いられたのだが、暴君が長く君臨した場合、それ以上の被害が出るからだ。
「これで出雲の国が変わらなければ、周辺各国と連携し、軍の正常化を行う事になるかもしれませんね」
「そこまでですか」
「そこまでなんです。出雲の英雄が、何故、自ら動かないのか。本当に残念でなりません」
署長さんは、出雲の国の自浄が期待できない事を残念そうに言う。
だから、他の国を動かしてでもどうにかしようと働きかけるようだ。
「創さんが噂話を広めてくれたおかげで、今回はまだ動きやすい方ですね。本当にいい仕事をしてくれました」
その一助を俺が担ったのであれば、ちょっと誇らしいね。