21-23 2つ目の罰
矢を肩に射る事により、徳原兄には一つ目の罰を与えた。
そしてここから、宣言したとおりにもう一つの罰を与える。
俺たちは家に帰る途中、『ヒューマン・クラン』のカードを数枚使い、そこら中に噂話を広めた。
噂話の内容は簡単だ。島で俺が言われたような事を、そのまま教えただけである。
――隠岐の島では、行商人が商売に行っても、難癖をつけられ安く買い叩かれる。
――出雲の軍は、適当な罪をでっちあげ、強制労働をさせている。
――出雲の国の英雄は、軍がそういった行為をしているという話が周囲に広まらないよう、金でもみ消している。
嘘は言っていない。
話が広まれば出雲の国とその軍に悪影響が出るだろうが、あの徳原兄を殺さずに封じ込めるためだ。俺の身を守るための、必要な最低限の措置である。
何かしようとすれば「ああ、やっぱり」と周囲に思われる。つまり、噂に信ぴょう性が出てくる。
悪事が露見しないようにするには、俺に何かすることを諦めないといけない。
噂が広まりきれば今後、行商人は出雲の国を避けるかもしれないし、これまで泣き寝入りしていた誰かが声を上げるようになるかもしれない。
身内が行方不明にでもなっていれば、出雲の国に問い合わせをするかもしれないね。
そうやって悪事が露見すれば……国としては、非常に面倒な事になる。
その原因となった徳原兄を裁かないといけなくなるのだ。
慣習なんかに拘って現状維持をしたければ、下手な動きはしないだろうよ。
……俺が出雲を去って数日後、俺の残した噂話をしている奴がいれば捕まえるぞと軍が言い出し、噂は本当なのだと周囲に思われるようになる。
その話を聞いた時は笑わせてもらったね。
火消しの仕方が杜撰すぎる。それでは余計に噂話は広まるだろう。
中国のネット取り締まり、言論狩りも自身の正当性の無さを証明する行為として扱われていたし、無駄に厳しい取り締まりをするのはどう考えても悪手である。
分かりやすい対抗策は、別の噂による上書きである。もしくは話に続きを作り、印象を操作する事か。
そもそもただの噂話など、そのうち忘れ去られ消える儚いものだ。それなのに脅しなどをすれば強烈な印象を残して余計に記憶に残ってしまう。
スルーしておく方が、まだマシだろうよ。
そうやって噂話を広めた後の『ヒューマン・クラン』だけど、通常の帰宅ではなく、いきなりカードに戻し消えてもらう事にした。
旅人でも人が急に消えれば騒ぎになるし、人の記憶に残るだろう。
宿などは基本的に先払いなので、金銭的な迷惑はあまりかからないはずである。
こうすれば、強制労働後に死んだ幽霊騒ぎか、軍が秘密裏に拉致したとか、そんな噂が立つと思う。
ちょっとした意趣返しとしては悪くないんじゃないかな?
もしも幽霊とかが苦手な人がいたら、申し訳なく思うけど。そこは、ごめんなさいだ。
軍の悪評は、自業自得なので気にしないけどね。