21-22 幕間:徳原翔洋の審問会
徳原翔洋。
出雲の国の最高戦力であり、隠岐の島における軍事の統括者。
それが彼の立場である。
そんな彼が、兄にして出雲の軍の恥部と裏で言われる兄の為とはいえ、土下座までして許しを請うた。
この話が軍本部に伝わった為、彼は召喚状で呼び出され、軍の審問を受ける事となった。
「――と、このような報告を受けているのだが、内容に訂正すべき点はあるかね?」
「ありません」
徳原が受けるのは審問であり、査問では無い。
審問は状況を詳しく調べる為、関係者に話を聞く事。
査問のような、犯罪行為・不正・過誤を調べる為に本人を呼び出すような事ではない。
軍は徳原の行動に疑問を持ってはいたが、彼の行動を間違いとして問いただすつもりは無かった。
「では、何故そうなったのか? 理由を説明したまえ」
「あのまま放置した場合、隠岐の島にいる人間が全滅したからです」
「は?」
「あの、創という人間にあれ以上の無体を強いた時、彼は本気で反抗したでしょう。
もしもそうなってしまえば、彼は迷わず島にいる人間全てと戦う事になりました。生き残りはいるでしょうが、その後のモンスター襲撃によりそれも蹂躙されます。結果、島の人間は全滅します」
「それが、今回の神託かね?」
「はい」
それは徳原の持つギフトが理由である。
ギフト『神託』。
徳原の周囲で起きる大きな不幸を、彼に知らせるという能力だ。
細かい発動理由は不明だが、彼がどうにか出来る範囲であるかどうかに関わらず、1時間後に起る事件の内容と、その事件の基点を知る事ができる。
アンカマーが海からやって来る時は大体察知できる為、本格的な襲撃まえに準備を整え、彼が軍を率いて迎え撃つ。
だからこそ、徳原翔洋は将軍なのであった。
「しかし……島一つ分の戦力を全滅させるほどの戦闘能力を持っているのか、彼は?」
「彼個人にそこまでの戦闘能力は無いと思います。強いですが、精鋭10人も当てれば難なく倒せる程度のはず、です。
ですが、どうやってか戦力を用意する手段を持っていたようです。召喚系のギフトを持っているのかもしれません。実際、島にいるはずのない者から、矢を射かけられていますし」
創は魔弓部隊を使い、徳原兄とその腰巾着を撃った。
だが、それは彼らにしてみれば不可解極まりない事なのだ。
なぜなら、隠岐の島は島であり、入島した者は軍が全員把握しているのである。
なのに、外から入ってきた形跡も無く、部下を用意して見せた。
徳原のギフトでもその詳細は掴めてはいない。だが、それがとても危険な能力であると、徳原も審問役の者も恐怖する。
詳細は掴めないが、島一つを全滅させる、それだけの戦力を用意できるという事なのだから。
「それにしても、厄介だな」
「義兄が面倒をおかけして申し訳ありません」
審問は創の事だけで無く、彼の義理の兄にも及ぶ。
勿論、徳原兄がやった事は軍でも問題視されており、これまでは徳原弟がフォローしてどうにか事なきを得ていたが、ここに来て大問題になってしまった。
彼の行為を創が帰りの道中で喧伝した為、出雲から東に大きく広まってしまったからだ。
この件でいくつもの苦情が周辺の国から寄せられており、出雲の国の立場が悪くなってしまった。
表面化していなかった問題が噴出すると、そこに便乗した嘘吐きまで出てくるので、対応が非常に面倒くさい事になる。
現在は寄せられた苦情の真偽を確認している最中であるが、この余計な仕事は国にとって大きな負担となっていた。
問題を、小さく収められているから大丈夫だと、見て見ぬフリをしてきたツケである。
ここにきてようやく、国や軍は愚か者に権力を持たせるデメリットを実感していた。
出雲の国は二度とこういった事が起きないように、無駄な慣習により軍内部のパワーバランスを維持する危険性をどうにかしようと動くようになる。
長年続いた慣習を排除するのは難しいが、それでもやらねば、同じ事が起りうる。
出雲の軍が正常化するには、まだ数年の時を要するのであった。