21-21 詐欺師達の暴論⑥
「俺は、貴方を止めた。にもかかわらず、貴方は俺の言葉を無視し、兄に攻撃を行なった。
これは明確な犯罪であり、軍の大尉への暴行、傷害事件として、犯人である貴方を拘束する」
しばらく黙っていた徳原弟だが、それでも何とか再起動し、俺を拘束すると言い出した。
言っていることは間違いでは無く、論理においても筋が通っているので、普通ならば反論など無理だろう。
言ったのが、徳原弟でなければ。
残念ながら、目の前の男に俺を拘束する道理はなかった。
ここで、これまで一度も口を開かなかった夏鈴が前に出る。
「私の旦那様が不快な行動をとり、申し訳ありません。
いくばかのお金、いえ、そうですね。お金ではなくその2人の怪我を治せる程度の物を出しますので、ここは場を収めては頂けないでしょうか?
旦那様には、私の方からちゃんと言い聞かせておきます」
そう言って頭を下げた。
俺が徳原兄の発言を真似たように、夏鈴は徳原弟の言動を真似て、反撃を行なう。
その間に、俺はと言うと、馬鹿どもの肩に刺さった矢から鏃を落とし、矢をわざと乱暴に抜き取ってから、回復薬で傷を治した。
「夏鈴。服代を忘れているよ」
「あらあら。これは気が利かずに申し訳ありません。金子も必要でしたね」
いかにも申し訳なさそうに眉根を止せ、困った顔をした夏鈴はそこそこの、軍服2着にはやや多いであろうお金を取り出し、徳原弟に差し出した。
「何を言っている! 人に怪我をさせておいて――」
「頭を下げて、お金を渡せば許して貰えるのですよね。ここでは」
それらの行動は徳原弟の怒りを買い、彼は分りやすく怒鳴り散らそうとしたので、俺は言葉を最後まで聞かずに“相手の主張を”口にした。
そうなのだ。
徳原弟が最初に行なったのは、そういう事だ。
金を渡し、謝罪し、やった人間には“身内が”説教をして終わり。
相手の主張を、そのまま実行しただけである。
これが問題アリだとするなら、自身の行動も問題アリとなる。
徳原弟の頭に、暴論のブーメランが突き刺さった。
「しかしだな、それは、その……」
この徳原弟の気性は、根っこの方に弱気なものが見え隠れする。
モンスターとの最前線で戦う最大戦力と言われようと、対人で暴力的に解決しない場面では、どうにも押しの弱さが表に出るタチのようだ。
戦場では頼りになるかもしれないが、こんなところではグダグダである。
戦闘能力、つまり暴力を前提に強気に出ている俺と比較し、どちらがマシかとはいわないけどね。
俺は、こうは成りたくないなと今の自分を肯定するだけだから。
「自分は他人にそれを強要して、受け入れさせようとしたというのに、他の誰かから自分が言われて、それを嫌とは言わせませんよ」
「ぐっ……」
まぁ、徳原弟の頭はそこまで悪くない。
会話は成立する。
だから、この言い合いで俺が負ける事はないだろう。
言い合いだけなら、相手の行動に非があったのが始まりという時点で、こちらは圧倒的に有利なのだし。
そして何故か暴力の行使に躊躇いを見せているので、これ以上揉める事もないだろう。
しばらくして、彼は肩を落とし項垂れて、もう一度俺達に謝罪の言葉を口にした。
そうしてこの場は終わりと、兄を担いで帰って行った。
徳原弟の背中が煤けていたが、それは見ない振りをする。
実際、かける言葉も無いからね。
ようやく色々と終わった俺たちは、皆で飯屋に入っていく。
ただ、馬鹿どもとのやりとりにより、俺たちと兵士さんらの間には、見えない壁が出来てしまった。
まったく。何でこうなってしまったのか。
俺は三馬鹿に心の中で悪態を吐き、夏鈴と頼んだ物を分け合う事で心を癒やすのだった。
これは余談になるが、馬鹿1号は縛られたまま放置されており、少なくとも俺たちが飯を食い終わって店を出た時には、まだ転がっていた。
その後、奴がいつ頃助けられたかは、俺の知るところでは無い。