21-20 詐欺師達の暴論⑤
「今回のような話が、今までも無かったと思うか? 俺は、そう思わない。何度も似たような事はあったはずだ。 で、アンタはその都度誰かに頭を下げてきたんじゃないのか?
説教程度で、本当になんとかなると思っているのか? これまでの説教に、効果はあったのか?」
「それは……」
目の前の男が、兄とどんな関係なのかは知らない。
ただ、弟だからと軽んじられているのではないかと、俺は疑っている。
その結果、こうやって尻拭いに奔走している。
「なぁ、この人って、軍ではどんな立場なんだ?」
「この方は、島では“英雄”と呼ばれるほどの戦果を挙げる、最高戦力です」
成る程。
目の前の男は軍では英雄だろうが家での立場が弱く、軍の功績は家の功績とされて馬鹿2号を増長させる装置に成り果てているようだ。
これで馬鹿2号、徳原弟が本気で兄を更生させようとすればなんとかなるかもしれないのだが、兄に対してか家に対してか、引け目があるのでそれを実行できずにいる。
そんな感じなんだろうな。
一応、最後に確認しておこうか。
「二度とこういった事が無いようにするには、その馬鹿2号――ああ、本音が出た。徳原兄を現在の役職から罷免してしまうのが最低限だと思っているんだけど。それが出来ない理由は?」
「……徳原の長子が、軍の中で将の座を担うのは、義務であります。本人がなんと言おうが、周囲と積み重ねてきた歴史が、それを許しません」
「実権の剥奪も出来ない? 役立たずを頭に据えるなら、無駄に兵を殺す事になる事ぐらい、誰でも知っている事だろうが」
「ですので、後方支援の任に就かせています。それと、俺の助けがあれば何とでもなるだろうと」
俺が兄を馬鹿と言い切って、しかもそれを本気と付け加える事で煽ってみたが、徳原弟は情けない顔をして、怒る事がなかった。
残念な兄の能力を、無駄に高く見積もる事もしていないようだ。
しかし、このご時世にゴミを上官にして実権を与えるとか、出雲の評議会や軍には馬鹿しかいないのだろうか?
歴史とか慣例・慣習だとか、そういった建前を完全に無視する事が出来ないのはいいけど、だったら実権を与えずお飾りにするなどして、内部で取り繕うぐらいはするべきだろうに。
そんな簡単な対策すらしない出雲の国に対する評価は、俺の中でかなり下がった。
ああ、目の前の“英雄(笑)”も、同じだな。
せめて手綱を締めるぐらいはしてもらいたいところだが。
理由は知らないけど、それをしないで見て見ぬ振りか。
いや、フォローしているという免罪符で自分の中にある罪悪感を誤魔化しているといったところかな?
ある意味、何もしないよりも最悪な存在である。
なにせ、こいつのせいで馬鹿の馬鹿さ加減が表に出ず、結果、苦しむ人がより多く出るのだから。
中途半端な善意が最悪の結果を生むという、よくある話だな。
ここまで考え、ちょっと思い出したのは、署長さんの事だ。
あの人は俺を止める為に言葉を尽くし、最後まで俺のやり方に異を唱えた。
目の前の馬鹿とは方向性が違うけど、俺の駄目な部分を駄目だと言い続け、俺と敵対関係になる可能性すら受け入れて諫めようとした。
結果は微妙だが、この“臆病者の英雄”と違い、立ち向かう勇気は示していた。
俺が見習うべき大人の姿はそちら側だが、その大人は、この場合どう動くだろうか?
殺しは嫌う人だし、一度ぐらいは温情を与えそうではある。
あと、罰は罰でしっかりと与えておけばいいか。
思考を、殺意マシマシから切り換える。
馬鹿を殺さず、英雄様に押しつけるつもりで。
いや、馬鹿よりも英雄様を試すつもりでいる。
どうせ馬鹿は改心しない。
なら、エターナル馬鹿を英雄様が制御しようとするかでその後の対応を決めよう。
準備も何も無しに暴れ回るリスクも、好ましいものでは無いからね。
こちらの勝ち筋、納得、安全を確保しつつ、今回の締めと行こうか。
「ま、殺すのは止めにするよ」
「そうか。済まない」
「ああ、賠償とかはいいよ。ちょっとここからのを見逃してはもらうけど」
「待ってくれ!」
「駄目だね。待たない」
妥協点として、馬鹿には二つの罰を与える。
俺は自分の肩の付け根を指差さし、片手で英雄の腕を掴む。
すると、どこからともなく飛んできた矢が、今度は邪魔される事無く、馬鹿1号2号の両肩を貫いた。
英雄様は飛んでくる矢に反応していたが、俺に腕を掴まれ、今度は邪魔できなかった。
その為、俺を鬼のような表情で睨む。
「罪には罰が必要だよ。金なんかで誤魔化されるつもりは、無い」
俺は馬鹿2号の発言を引用して徳原弟に言ってやると、彼は悔しそうに、何も言わず俯いた。