21-19 詐欺師達の暴論④
ちょっと待て、車は急に止まれない。
そんな言葉が、世の中にはある。
何が言いたいのかというと、この止めに入った男性は遅かったのだ。
俺はすでに覚悟完了、今まさに動こうとしたところで、それはスライディング土下座をされたところで止まるようなものでは無い。
結果。
馬鹿1号と2号の頭をめがけて、矢が飛んでいった。
すると、それを察知したのか、土下座さんはその場でブレイクダンスのごとく一回転。馬鹿どもの足を払い、その命を救った。
いい反応速度だな。
「お怒りとは思いますが、この場は俺に免じて、退いては頂けないでしょうか?」
「その馬鹿どもを庇うのは止めておいた方が無難だと思うよ? 生きているだけで周囲に被害をもたらすタイプだ。頭を下げてまで救う価値が無いっていうより、下げられた頭にも価値が無いし、許す理由がどこにあるのか、是非聞いてみたい。
そもそも、アンタ誰だよ」
ただ、この土下座さんは決断力や戦闘能力はともかく、交渉事に強いタイプでは無さそうだった。
ただ自分の要求を突きつけるだけの精神論タイプで、「俺に免じて」と言いつつも、対価を何も口にしていない。
謝罪が頭を下げて終わりとか、そんなレベルのやりとりでは済まないことが理解できていないのかな?
ただ、全く会話が成立しない訳では無いから、まずは軌道修正をしてみるか。
彼に命を救われたと理解できていない馬鹿が「いきなり何をするんだ!」とか騒いでいるのが煩かったので、夏鈴に目配せし、猿ぐつわを噛ませつつ拘束した。ロープはお前らの服な。
あ、念のために肩の関節を外したら2号は白目をむいて気絶した。痛み耐性ゼロかよ。1号は痛くても涙目になるだけで済んでるのに。
俺に誰かと聞かれた土下座さんは、名乗りを上げていないことに気が付き、立ち上がってこちらの目を見てから90度、頭を下げた。
「この島で防衛部隊を率いている、「徳原 翔洋」だ。彼は私の義兄なんだ」
「知っているかもしれないが、行商人、医者、学者の真似事をしている創だ。姓は無い。この島にはとあるモンスターを調べる為にやってきた」
お互い、簡単な自己紹介をする。
必要最低限の情報を共有したとことで、徳原弟を促し本題へと移る。
「こちらはいきなり嘘八百を並べたてられ、不当に報酬の減額と理不尽な拘束されようとしたわけだが、その点をどう謝罪する?」
「その点に関しては、いくらかお金を出すので、許して欲しいとしか言えない」
ふむ。
まだ被害・実害が出ていないからと、謝罪だけで済ませるかもと警戒していたけど。お金を出す気はあるのか。
軽いジャブの段階では、まだ真面な事を言っている。
でも、それだけじゃ足りないんだよね。
一番の問題は、そこで白目を剥いている徳原兄をどう処分するかだ。
放置すれば同じ事をするだろうから、本気の最低でも立場を追いやって人を使えないところに落とすべきだけどね。
「それなんだが……俺の方でちゃんと説得するから、見逃してくれないだろうか?」
「駄目に決まってるだろ。馬鹿かよ」
あまりにも頭の悪い対応をしそうだったので、思わず悪態が口を吐いて出た。