21-18 詐欺師達の暴論③
馬鹿が増えると、相乗効果で大馬鹿になるのだろうか?
俺の身分というか、今の対外的な立場は医者であるが、同時に旅の薬売りとなる。
薬師ではなく、薬売り。
他に拠点を持ち、仲間もいる行商担当である。
付け加えると、嫁と二人で旅が出来る程度に強いというのも、暗に主張しているんだけどね。
手を出せば痛い目を見ると、何で分からないかな?
「寝言は寝ていった方が良いぞ。お里が知れる」
「何だと貴様! 犯罪者の分際で、言うに事欠き私を馬鹿にしたな!!」
目の前の馬鹿2号がどこの誰かなんて知っているわけがない。
服から身分が推測できるが、推測できるというだけだし。知らないものは知らない。
そして、先ほど脳足りんな発言をしていたので、どう考えても大馬鹿一直線である。何も間違っていない。
しかし言われた側はそれが理解できない程度に馬鹿と言うことで、顔を真っ赤にして怒りだした。
不敬罪だの何だの言っているので、マジでここで殺してしまおうと、怒りではなく理性で冷徹に判断を下す。
少なくとも、この手の馬鹿が生きていていい事というのを、俺は寡聞にして知らない。生きているだけで害悪だ。
それでもこの馬鹿2号は、相当な身分の人間のようである。
俺の周りにいた、俺に対し友好的だったはずの兵士さんらは困惑の表情で俺から距離をとった。
命の恩人というのは言い過ぎにしても、怪我を治療した事で感謝の対象になった俺から距離をとったのである。
つまり感謝を上回る厄介さを、目の前の馬鹿は発揮するという事だ。マジで害悪だな!
俺の周囲には、隠してはいるけど、魔剣部隊と魔弓部隊を待機させてある。
いざという時の戦力に不安は無い。
合図さえ送れば、魔弓部隊の矢が馬鹿1号と2号の頭を貫くだろう。
逃げるのは大変かもしれないが、不可能とは思わない。
最悪はこの島の人間を鏖殺してでもこちらの安全を確保する所存である。
非常に心苦しい決断ではあるが、身分のある人間を殺す以上、相応の安全マージンを確保しないと駄目だ。
リスクを最小限に。
国一つを敵に回すぐらいの気構えをしよう。
また署長さんに怒られてしまうような話になるが、相手が向かってきて、こちらに無法を働こうとして。準備期間も何も無いので圧倒的暴力以外の解決手段が手元に無い。
魔法は『ヒール』しか披露しなかったし、上限10回と回数に制限まで付けたのに、これである。それぐらいの人間を冤罪で確保しようとするとは、さすがに想像していなかった。
一体何が彼らをそうまでさせるのか? 巻き込まれる俺には理不尽な話である。
せめて準備時間があれば、ここまでの強攻策をとる必要もなくなるのだが。
相手の情報や周囲の状況、派閥の力関係。そういったものを把握していないので、頼れるものは己一人。
じゃあ、馬鹿1号2号を始末して、その後の流れは状況次第といきましょうか。
俺は隣にいる夏鈴の手を取ると、ぎゅっと握って覚悟完了であることを伝える。
夏鈴もまた、俺の手を握り返して同意を伝えてきた。
二人なら、なんとかなる。
二人でなら、怖くない。絶対に負けない。
では、魔弓部隊に合図を、というところで一人の男が俺の目の前に現れた。
「すんませんでしたーー!!」
そして流れるようにスライディング土下座。
……は?