2-10 岐阜の貴金属取扱店
岐阜市は、記憶の中で照らし合わせると岐阜県庁のあたりではなく、岐阜駅のあった場所が中心になっているようだった。
あとは稲葉神社、岐阜城のあったところまでがその影響範囲となっている。
元の岐阜市で言えば長良川以北もその範囲に入っているはずだけど、今では長良川を挟んで北は長良市とか、別の市として機能しているらしい。
市町村に関しては橋が無い事などを理由に、川を挟むと別となるのが今の一般的な考え方みたいだ。
「なるほど。情報提供に感謝します」
岐阜についた俺は、警察で強盗殺人事件になりそうだったという話をしてみた。
同じ美濃の国という位置づけだが、同時に隣接する他の市という位置にも見える。
小さい事だが、どうせ貴金属買取店を探すのだから、これぐらいはやっておこうと思ったのだ。
それは正解だった。
岐阜の警察は大垣の警察と違い、俺の話をまともに聞いてくれた。そして、いくつかアドバイスまで貰えた。
岐阜の市警は他の市に対する捜査権を持ってないが、こういった不祥事に関しては動くことができるという事。内部浄化ができないのであれば外からどうにかするしかないので、そういう仕組みになっているらしい。
俺の件だけで動くことはないと謝られたが、この情報を使い、何かあった時の交渉カードを作るつもりだと感謝された。
不正の証拠をこれから掴むってことかな。俺の言葉だけでは動くに動けないだろうから。
俺は警察での話を終えると、岐阜の買取店まで足を延ばした。
岐阜の買取店では、スムーズに話が付いた。
砂金一袋、結構な量だったので、20万円もの値が付いた。
流民、旅人という信用の低い人間が売り手であるため通常の半額と安くなったが、相応の理由があるのであれば、こちらに否はない。
手持ちの砂金は全部放出し、お互い満足のいく結果となった。
あと、警察のアドバイスに従い、このお店の人にも大垣であった事を話した。
貴金属買取店には彼ら独自のネットワークがあり、こういったタレこみ、情報提供は喜ばれると教わったからだ。
「へぇ……面白いわね。うん。この情報には別の御礼が必要かしら」
この店の店主は、線の細い壮年の女性。
髪に白いものが混じり始めた、落ち着いた雰囲気の人だ。
彼女は俺の話を聞き終えると、非常に楽しそうに笑みを浮かべた。
年代的にはあちらの方が一回り下だと思うけど、ご近所――片道1日かかったが――なので、何らかの付き合いがあるんだろうね。
もしかすると、俺の出番がなくなるかもしれないぐらいにこっちの店長さんは怖かった。
うん。見なかったことにしよう。
俺は何も知らない、気が付いていない。
だから普通に仕返しをする。それでいいじゃないか。
仕返しの準備をしよう、そうしよう。
俺は店主の女性に頭を下げると、暖かくなった懐を支えに、逃げるように店を出るのだった。