21-17 詐欺師達の暴論②
金勘定を担当する人は、1円でも支出を減らす、1円でも収入を増やすのがお仕事だ、などと言う馬鹿な話は無い。
「正確に、支出と収入を計算するお仕事」だ。
予算の範囲内で欲しい物と欲しいけど我慢しなくちゃならない物を決める立場かもしれないけどね。
交渉して欲しい物の範囲を広げるぐらいなら、まだ分かる。
立場を使って値引きを強要するところまでは、まだ理解を示そう。
ただ、一度決めた約束事を後になって翻したりするのはどうかと思う。
物を渡して金を受け取り。その後に騒ぎ立てるとか、タチの悪い詐欺師である。
「つまりですねぇ、効果が弱いのですよ! これでは満額支払うのは駄目です。そちらの品の、質が悪いのですから!」
生き生きと大嘘を言い放ち、「言ったほどの効果が無い薬だから金返せ」とのたまう馬鹿がいる。
こいつ、ここで殺しておいた方が良いんじゃないだろうか?
そんな事を考えたくなるぐらい、俺は苛々している。
腹はペコペコ、これからみんなで飯だ。何を食べようかな?
そんな気分でいた所で馬鹿な事を言われれば、そりゃぁブチ殺したくもなる。
俺以外、一緒にいた兵士さんらも殺気立っている。
俺が持ち込んだ回復薬の効果を、身を以って体験した人もいるんだから、良い気分じゃないのは間違いないだろう。
彼らの怒りを感じ、俺はほんの少し、頭を冷やす。
出雲の軍と、目の前の馬鹿を一括りにしないように意識を向ける。
こういう事を言われるとね、「じゃあ出雲には回復薬を売りません」と言いたくなるんだ。
それで困るのは、近くにいる兵士さんらの方だというのに。
なので、何を言われようが、たった一人の馬鹿を理由に、軍を相手取るような発言はしないと自分の方向性を固めておく。
何かするなら、目の前の馬鹿を直接殺せばいいやと、被害を最小限、最小範囲に抑える方向で思考を組み立てる。
馬鹿の家族? 馬鹿の上司や同僚、部下?
確かに馬鹿の関係者は困るだろうが、そこは最小の範囲なので、いざという時は分かっていてもやるぞ。
俺が静かに殺意を漲らせていると、そこに馬鹿の追加が現れた。
着ている軍服が馬鹿1号と同じ系統で、もっと華美な印象を受ける。
要は、馬鹿1号の上司っぽい。
「おいおい、どうしたんだね? いったい何の騒ぎだ」
「はっ! 購入した薬品に、説明されただけの効果が無かったので、売り主に苦情を申し立てていたところであります!」
「そうかそうか。軍に詐欺を働く、そんな愚か者がいたというのか。それは、厳しい罰を与えんといかんよなぁ」
1号と同じような笑顔を浮かべている馬鹿2号。
一連の流れに淀みが無いため、事前に打ち合わせをしていたようである。
鏡写しのように二匹とも非常に厭な顔で意見交換をしている。
「ではしばらくの間、軍で働いてもらうとしよう。出した損害に対する賠償を、金で軽く済ませられるとは思わない事だ。
期間は……そうだな、1年か2年で許してやろう」
「そうですね。お金だけで済む問題ではありませんでしたな。事は、軍の、メンツにかかわる事ですから!」
聞いていて、流石に馬鹿らしくなってきた。
付き合いきれないと思った俺は怒りを無くしたので、どうやって昼飯を食うか、昼飯に何を食うかに意識を向けることにした。
ステーキと海鮮丼、どっちも食べてしまおうかね?