21-16 詐欺師達の暴論①
重傷の人を雑ではあるが治し終え、危篤状態を脱出させた。
これで頼まれた仕事は終わりである。
だが、よく見ると、他の重傷者への治療が雑だと感じた。
包帯の巻き方とか、傷の縫合とか。そういった通常の治療行為が上手くできていないのだ。
怪我人が体を動かしたことで包帯がずれたり、縫合した傷口が開いている。
仕方がないと言うか、乗り掛かった舟と言うか。
俺は手伝いを申し出て、彼らの治療もやってしまうことにした。
「はぁぁ。凄いね。ずいぶん楽になったよ」
「いやいや。動かさないで。傷は塞がっていないんだから」
俺は目につく範囲で緩い包帯の巻き直しを行った。
あと、傷口の縫合が甘かった人は縫合のやり直しもした。
気が付けば昼を大幅に過ぎ、いい時間になっている。
「包帯って、ただ巻けばいいって思っていたよ」
「だなぁ。怪我が治ればそれでいいとか、悪化しないならいいんじゃないかって。なぁ」
「そんな訳ないから。もっといろいろ考えないと駄目だって。
今回教えた分だけで良いから、ちゃんと覚えておいてよ」
「はーい」
包帯を巻く時、傷が開かないようにするのは当たり前である。
それと同時に、関節部分に負荷をかけず、逆に補助するように巻くのがプロの仕事だ。
俺が巻き直した包帯は、先ほどよりもしっかり巻いてあるにもかかわらず、動かしやすいと評判になった。
俺の包帯捌きはジョブが『ゴッドハンド』のジン直伝なので、レベルが高いのは当然である。
ついでだから近くにいた兵隊さんに、本格的な医療行為ではなく誰もができた方が良い基礎知識として、包帯の巻き方をレクチャーしたりもした。
見本を見せたり実際にやらせたりはしたけれど、ちゃんと覚えてくれたかは自信が無い。不安の方が大きい。
それでも、何も知らずにいるよりはマシだと信じておこう。
治療が終わったのだから、遅くなってしまったがご飯にしよう。
だけど、治療で血の臭いが染みついたので、普通の飯屋には行けなさそうだ。
「あ、先生。ご飯ならこっちに良い店がありますよ」
「うちらが使ってる店なんで、そのままでも問題無いっす」
俺が血の臭いをどうしようか悩んでいると、俺が飯を食っていない事に気が付いた兵士さんらが声をかけてくれた。
多少汚れていても問題の無い兵士さん御用達の飯屋があるので、一緒にそこまで歩いていく事になった。
「牛肉のステーキが最高ですよ。昨日の今日なので、今ならメニューに載せているはずです」
「いんや! 一番のおすすめはおまかせ海鮮丼っす!」
「海鮮丼はいつでも食べられるだろう? ステーキは肉があるときの限定なんだぞ」
「それでも、獲れたての海鮮丼こそ最高なんす! 先生には、やっぱここならではの海鮮を食って欲しいんすよ!」
決める時間を短縮するためにおすすめメニューを聞いてみると、意見が分かれて争いだした。
兵士さんらは肉と魚でちょうど二手に分かれ、いがみ合っている。
どっちでもいいけどね。
どっちも美味しそうだから。
そんな気楽な気分で店に着くと、嫌な顔があるのに気が付いた。
朝一番に金の話で揉めた、補給部隊の人である。
そいつは俺を見ると、カマキリのような顔を嬉しそうに、厭らしく歪めた。
……クソ面倒な話になりそうだな。周りには兵士さんらがいるので、そこまで変な事は言い出さないだろうけど。