21-15 追加の治療
こちらに嫌な顔をしていた連中の事は忘れ、好ましい付き合いができそうな人と仲良くすることにした。
嫌な連中だからと言って裏で排除する気は無いが、かと言って積極的に関りを持ち関係改善などと言うつもりも無い。
こういった時はお互いに適切な距離を保つというのが大人の対応だろう。
と言っても、滞在期間はあと1日だけと決めているので、どうでもいい事に時間という貴重なリソースを費やすつもりは無いだけだ。
俺は「魔力が回復したので魔法による治療を追加で行う」という名目で、身を清めた後に昨日の職場へと向かった。
「創さん! 今日もお願いします!」
「うんうん。任せて。怪我の具合を見て、10人ほど治療するから。まずは全員の怪我の具合を見て回らせてもらうよ」
「よろしくお願いします!」
昨日のうちに、今日も治療を行う話は付けておいた。
向こうの対応もスムーズである。
俺は仲良くなった兵士の一人、北野さんに案内されて怪我人が押し込められた場所へと向かう。
昨日は治療現場が複数箇所に分かれ、それぞれで治療を行っていた。
しかし事態が収束して少し時間が空いたので、重傷患者は別の場所にまとめられているという。
救急の医療現場は複数に、重傷・重篤患者は一ヶ所に集約。医療従事者を使う上での、リソース管理の基本だな。
俺は案内された建物に、北野さんの案内で一緒に入る。
連れられて入った部屋では、まず最初に血の臭いがした。
その次に薬品の臭いである。
傷が痛むのだろう、うめき声がそこら中から聞こえる。
重傷者だけが集められているにも関わらず、20人かそこらがベッドに倒れていた。
「『ヒール』を使える魔法使いは数が少ないんですよ……」
俺のところでは、重傷者を優先して魔法と回復薬で治した。
お陰で、酷い怪我人は全員治療済み。重傷者は一人も残っていない。
他で同じことができるのと聞かれれば、薬の方は先に渡しておいたので、ある程度は軽減できていると思ったんだけどね。できていないようだ。
これ、薬をケチったのか、それとも薬が足りなかったのか。どっちだろうな?
いや、今は怪我人を治すのが優先だな。考察はあとだ。
死にそうなのもいるから、さっさと動こう。
俺は分かりやすい優先対象、腕がモゲてしまった兵士さんや、脇腹の一部が抉れた兵士さんを『ヒール』で治していく。
あとは傷が深い人、体力が無さそうな人を選んで治す。
対外的な理由で回数制限をつけたから、実際の限界を無視し、事前申告した回数だけで治療は終わり。
放置すれば死ぬような怪我だろうが、魔法を使えば通常の治療だけでなんとかなるところまで回復する。
細かい原理はわからないが、『ヒール』なら傷口が塞がるような治り方をする。『リジェネレイト』なら欠損部位も元通り。やらないけどね。
それでも、腕がモゲた人はモゲた所が皮膚で覆われ、脇腹が抉れた人もその欠損部分をそのままに止血処置がされたような状態になった。
腕はともかく、内蔵の欠損はどうなるんだろうか?
ちゃんと治療できたって言ってしまうに憚られる結果じゃないよね?