21-14 隠岐の島襲撃③
そこそこ大きいサイズの狼のモンスターが島を襲い始め、半日。
その半日で、モンスターは全滅した。
昼過ぎの半日後という事で、時刻は深夜である。
最終的には50人ぐらいが俺の所に運び込まれた。俺たち以外にも医者と言うか手当担当はいたはずなので、100人以上が重軽傷を負ったわけだ。
その数が多いのか少ないのかは知らない。
ただ、俺たちの所に運び込まれた者の中に死者は出ていない。
それが救いである。
戦闘への協力という事で半日も拘束されたが、その間に兵士さんらとはずいぶんお話をして仲良くなったので、悪い事ばかりでもない。
むしろ、人の信頼を得るのに治療行為が適していたという事で、プラスの側面が大きかったように思う。
肩を並べ戦うのでも信頼は得られるだろうが、ここまで話をする時間は確保できなかっただろう。満足である。
戦闘が終わったと聞いた時は、さすがに疲れていたので、そのまま気を失うように兵士さんらと一緒に雑魚寝をしたよ。
それは無いだろうと聞かされていたんだけどね。“もしも”とか、“いざ”って時にはここから逃げなきゃいけなかったからね。ちょっとは緊張していたんだよ。
それも、無事に終わってしまえば笑ってすませられるから、どうでもいいんだけどね。
「むむむ。やはり、高くはないですかねぇ?」
「えー? 輸送費ゼロの購入価格そのままですよ。こちらも儲けは度外視ですよー?」
翌日。
俺は出雲の国の軍の、補給部隊の人とお話をしていた。
ただ、その話は難航している。
話の内容は、前日に使った回復薬の代金支払いだ。
先に値段を教えておいたのだが、支払う段になって相手が根切り交渉を始めたのだ。
こちらの判断で使う・使わないを決めて良いという話だったし、そもそも回復薬は帰り際に全部売るという約束をしていた。
細かいことを考えなければ、支払う金額に変化はない。
ただ、現物が手元に残っているかいないかという話である。
「いえ、回復魔法で対応してくれていれば、ですね」
「『ヒール』の方が、効果は上。使い切ってしまう事は許されず、薬で済ませられるなら、薬で対応する。当たり前の話ではないでしょうか」
こちらとしても、今後の取引を考えればごね得を許すわけにはいかない。
多少の物資的な支援も吝かではないが、約束破りを許すかどうかは全く話が違う。
俺は一歩も引かない、1円たりとも安くはしないと胸を張り毅然とした態度を崩さない。
しばらく話をしていたが、約束は約束である。
こちらの主張が通った。
通ったのだが、補給部隊の人とは完全に仲違いをしたような形となった。ものすごく嫌な目で見られている。
「自分たちは国を守るために戦っているのだから、もっと特別扱いするべきである」という、そんな印象を受けた。
戦う兵士さんとは仲良くなった。
が、後方支援の兵士さんとは仲良くできない。
なんとも嫌な話ではあった。
最後の最後でケチが付いてしまった。
気のいい兵士さんらの顔を思い出し、少し気持ちを切り替えるとしよう。