21-13 隠岐の島襲撃②
モンスターが海からやってくる。
この国では、珍しくもない話。
だが、そんなに日常的に起こる話でもない。
巻き込まれる俺としては、たまったものではない。
安全第一。命を大事に。
そんな方針なので、前線に出る気など全くない。
それでどうやって戦うのかというと、回復要員として、後方支援を行うのだ。
戦闘要員であるというのは、前に出て武器を振るったり攻撃魔法を撃ったり、盾で攻撃を食い止めるばかりではない。
前に出た誰かが怪我をして、後ろに下がってきた時。そんな彼らを治療するのも、立派な戦闘行為なのだ。
「すみません! この人を助けてください!」
「あいよー。そこのベッドに寝かせて」
「お願いします! こいつ、俺をかばって……」
何に襲われたのかは知らないけど、怪我人の数は結構多いようだ。
さっきからどんどん送られてくる。
現在、30人ほどの怪我人の相手をしている。
俺は臨時の治療担当のため、兵士の総数も知らないし、敵についての説明もない。
ディズ・オークのような奴ならさすがに説明してもらえると思うんだけど、それはたぶん違うのだろう。怪我が噛まれたようなのとか、3本の爪で引っ掛かれたようなものばかりだから獣系と推測できる。
噛まれた方の怪我も、引っ掻かれた方の怪我も、深くなければ傷口を水で洗い、傷薬で簡単に止血し、包帯でも巻いて終了。
深い傷を負った人には『ヒール』の魔法か、エルフ印と偽った、莉奈の回復薬で瞬間治療。こちらは傷口を洗うとかやっていたら死にかねないので、そのまま治している。
魔法とかで治しても、すぐに動けるわけではない。怪我治ったからと言って動き出さず、大人しく寝ておけ。また怪我をして俺に手間をかけさせるな。
面倒なのは、複雑骨折系。
そのまま治そうとすると、骨が変な曲がり方をしたままになってしまう。添え木で伸ばしてから治さないといけない。
こちらも重症度によって魔法を使うかどうかの判断をしている。
悪いけど、死にそうにないなら魔法による治療はしないよ。
序盤では多くの怪我人を出していたが、時間が経つと対処法が確立できたのか、暇になった。
「へー。翠の毛皮の狼ですか」
「ああ。魔法こそ使わないが、動きが早く力が強い。かなりてこずらされた。
だが、数が少ないし、我らには“英雄”がいるからな。負ないぞ」
「“英雄”?」
「そうだ。他国に名が轟くほどの戦果はまだ無いが、それも時間の問題。
越前の英雄はいなくなって久しいが、それ以上の英雄の名で、万民を安心させるだろう」
同じく暇をしている兵士さんから話を聞く。
どんなモンスターに襲われているだとか、出雲の国の英雄さんの話とか。興味深い情報を手に入れた。
こちらも回復薬の情報を出したり、モンスターと戦ったときの話とかをしておく。
そうすることで、より多くの情報を引き出す。
互いに言えない話があるのは当たり前。
それでも有意義な時間だったと思うよ。