21-12 隠岐の島襲撃①
ゆっくり温泉に浸かって、美味い物を食べて。夜は頑張って。
そうして迎えた翌朝だけど、この日は生憎の雨だった。
「この時期は雨が降りやすいな」
「梅雨ではありませんが、こんな事もありますね」
雨の最中でも移動できるようにと対策はしてきたけど、雨の中で調査をする準備をしてきたわけではない。
本当であれば、大蛇との古戦場を調べようと思っていたのだが。
「ま、今回の調査は天候次第だけど、これで切り上げかな?
良い量の情報が手に入ったし、悪くもない結果だよ」
「これからどうするのか、その情報を関係各署と共有する時間も必要ですからね」
持ち帰るために自分たち用の写本だって作ったし、その中身の検討も行なった。
ここで出来ることは少なく、もう帰ったところで何の問題も無い。
天気に恵まれなかったが、残りの時間はバカンスでも良いだろう。
人生、急ぐばかりでは面白くない。
俺たち二人は、宿でしばらくゆっくりしていた。
宿は晩飯のみの3泊4日で代金を先払いしており、朝と昼の飯は自前となる。
食材などは手持ちのものがあるし、少しぐらいなら近くで買うことも出来る。宿の厨房を貸して貰って、簡単な料理を作るだけで済ませた。
持ち込んだ食材は数日前に来たばかりだが、基本も応用も保存食系統である。
カード能力を伏せているので生鮮食品は使えない。
それでも海鮮出汁の味噌汁とか、干し肉入のスープぐらいは作れるし、柔らかかろうとパンの類なら持っていても不思議に思われない。揚げ麺、乾麺だってあるよ。
2日分の食事ぐらい、食材持ち込みでも怪しまれないはずである。
後は帰りに追加購入すれば、普通の旅人である。
そうやって島の人と関わるのは厨房を借りる時と、風呂の前後と、後はトイレなどの時だけである。
世間話をしていると、どこでボロが出るかも分からないし、そうでなくとも情報を抜かれるだろう。
無駄な情報流出は避けるべきだ。
そんな理由で調査をするわけでもなければ、引きこもりである。
偽装した身分でもなんでもなく、俺と夏鈴は新婚であり、夫婦が二人きりでいたとしても怪しまれない。
そんな俺たちの行動とは関係なく、状況は動く。
雨の音をかき消すような、緊急事態を告げる鐘の音が島に鳴り響いた。
その合間に、誰かの叫ぶ声が聞こえる。
「大変だ! 海からモンスターだ! アンカマーが来たぞ!!」
隠岐の島は、竹島と並び、出雲の国の最前線である。
大陸に近いこの島はアンカマーの防波堤であり、戦える人間はどこの誰でも割と歓迎される。
俺たちがこの島に来られたのも、ある程度は戦えるからだ。
いざという時は戦いに協力する約束をして、この場に居る。
大体が竹島で迎撃し追えるので、隠岐の島は滅多にないと聞いていた。ほんの数日だから大丈夫だと思っていた。
それで、油断してしまった。
戦いたくはないが、約束しているし、仕方ないよなぁ。
では、お仕事をしますかね。