21-11 調査後の楽しみ
その後も調書を見ていたが、よくよく考えてみると、一番肝心な部分だけは載っていない。
「雄総さんの話というか、どんな能力を持った人なのかは触れられていないよね」
「はい。誰も知らなかったのか、知っていて当然で書くまでもなかったのか。この調書は幽暗の大蛇についての物なので、彼の調書が別に存在するのか。それとも、あえて文章化を避けるような能力だったのかもしれません」
「いきなり現れて、現場の人を説き伏せ謎の封印術式で幽暗の大蛇を封印して。謎しかない人だよなぁ」
「不自然ですよね」
残念ながら、子孫である神社の神主さん一家も、雄総潤一郎という“英雄”が何者なのかを知らない。
結婚して子供もいたわけなので、嫁さんぐらいは彼の事情を知っていそうだったんだけどね。故人だから聞くことも出来ない。
さすがに、死者を生き返らせることは出来ないので調べ物はここで打ち止めだ。
「やれやれ。朝から夕方まで調べ物をすると、さすがにキツいな」
「写本も大変でしたからね」
古い本に囲まれた部屋から出ると、俺は腕を上げ背を伸ばした。
そのあと、軽く腰を捻ると強張った身体が少しほぐれる。
大変ではあったが、実入りが大きく、ここまで俺が来た甲斐があったと思える。
調査員達だけに任せておければ良いんだろうけど、ここの写本のような事があると、どうしても俺の力が必要になる。
人任せに出来る部分は任せるけど、任せられないところは頑張るしかないのだ。
「調べ物はすぐに終わったし、今日は温泉に入ってゆっくり休むかな」
「そうですね。楽しみです」
こうやって疲れた身体を癒やしたい時は、温泉に限る。
ありがたいことに隠岐の島には温泉があり、古くから親しまれている。
隠岐の島と俺は言うが、この近くには大小様々な島があり、今いる隠岐の島を中心に、隠岐の島諸島を形成している。
そしてそのうちのいくつかは火山の噴火によって出来た島で、その火山由来の温泉が湧くのだ。
あと、隠岐の島は日本最古の闘牛をしていた場所でもあり、遠流にされた天皇……後鳥羽? 後白河? が楽しんでいたという逸話もあるぐらい、牛で有名な土地でもある。
今でも闘牛の歴史は続いており、牛が美味しい土地である。
島なので海鮮も期待できるし、夕飯も期待できるだろう。
金銭的には全く困っていないので、金を惜しまず美味い物を食べよう。
それと。
俺は隣を歩く夏鈴の、楽しげな横顔を見る。
本日泊るのは、宿の離れである。
ぶっちゃけ、そういう事をする為のお部屋とも言う。
温泉は子作りにも良いと聞いている夏鈴の機嫌は、かなり良い。
ここから更に疲れることになりそうだと、俺は苦笑いをするのだった。