21-10 行動の変化を考える
この調書を読んでいて、気になった点が一つある。
それは、大蛇の行動パターンだ。
調書の上では、幽暗の大蛇は人を丸呑みにすることを目的にしているというか、無目的に、食欲優先で人を襲っているように見える。
それが今では、人を操って社会を混乱させることを目的としているように見える。
そして、この隠岐の島では行方不明事件が起きていない。
ドール化している人も、今のところ見かけていない。
つまり人を襲うような、食欲を満たす為の動きをしていないように見える。
姿を見せようともしないのも、封印以前と違うよね。
封印の前後で行動パターンがガラリと変わった。
「封印したことで、雄総さんと大蛇が混ざり合って、一つになった。そんな感じかなぁ?」
「考えられますね。雄総さんがどのような人であったかは知りませんが、封印の結果、精神が汚染された可能性もあります」
「愉快な結果にならなかったのは間違いないね。だって、150年も前の人が未だに生きているとなると」
「もう人間ではないのは間違いありませんよね」
俺と夏鈴は顔を見合わせ、揃ってため息をついた。
割と最悪な結論が、簡単に導き出されてしまったので。
多分だけど、雄総さんが幽暗の大蛇に取り込まれるような結果になっているっぽい。
大蛇のトンデモ能力と人間の思考能力が合わさった、最悪なモンスターに進化しているようだ。
要は、厄介さがムチャクチャ増している。
当時の幽暗の大蛇は、こう言っては悪いが、そこまで脅威ではなかった。
頭がただのケダモノだからね。罠に嵌めるぐらい、簡単そうに見える。
しかし、人間の狡猾さを学ばれたとなると、罠に嵌めるのも一苦労。
むしろ向こうが罠を仕掛けてくる可能性だってある。
どの程度頭が良くなったかは知らないけど、一筋縄ではいかないのは間違いない。
もしも無敵モードの条件とかをしっかり把握しているのであれば、その状態を維持する為に何らかの防御手段を講じている可能性もある。
弱点があったとしても、それを守る為の行動をとるという事だ。
あと、使われた封印術式は、もう使えないと思って良いかな?
雄総さんが取り込まれたのであれば、ここに書かれている封印術式の記述以上に封印に詳しいだろうし。
使った奴と使われた奴の記憶が一緒になっているのであれば、対策ぐらいしているだろう。
俺の頭が良ければ、逆にやり易くなったと喜ぶかもしれない。人間の考え方をベースに動くなら、それはそれで読み切ることも出来るだろうから。
だが困ったことに、俺の頭はそこまで悪くないけど、良くも無いんだよ。
頭のいい人との読み合いで勝てると思うほど自惚れてはいない。
雄総さんの頭の出来が気になるところではある。
……150年分の研鑽があるなら、頭の出来はともかく、積み重ねられた経験値でもの凄く厄介そうな気もするなぁ。
こちらが優位に立てるとしたら、俺のカード能力が未知の物であった場合か。
俺が能力を正しく使いこなし、相手の予測を上回ることが出来れば、勝ち目はある。
あとは後出しで相手の対応能力を上回るような何かを作り出すしかない。
ある意味、いつも通りと言うことかな?
打てる手なんて簡単に増える物でもないし、また手札を増やして出来ることを積み上げるしかないよね。