21-9 防御対策を考える
幽暗の大蛇。
その防御能力について考える。
物理攻撃も魔法攻撃も、全部すり抜ける巨大な蛇。
攻撃手段こそ単調単純だが、打つ手無しとは、まさにこのことだろう。
こんな無敵のボスがゲームにでも出てこよう物なら、そのゲームはクソゲー認定されそうな敵ではあるが、ゲーム的に考えると、実はそこまで珍しくも無かったりする。
「攻撃が通らないのは、何らかの条件を満たしていないからって事だろうね」
「天候や時間、地形など。試されずに終わっていますからね」
「人的被害を抑える為に手を尽くしはしたけど、試せそうな事はまだあったと思うんだよね」
記録では、幽暗の大蛇は山の中に住み着いていた為、山の斜面で戦っていたようだ。
天候は晴れた日を選び、時間は昼であったり、明かりの要らない月夜であったり。自分たちが戦いやすいような環境を選んでいたようだ。
夜間の戦闘では火攻めをしたという記述があったが、あとは弓矢と魔法による遠距離攻撃と槍衾などで対応しており、それ以外の工夫が見られない。
蛇相手に最も有効だろう氷魔法による攻撃すら無いのは、正直どうかと思う。
「氷魔法を使わなかったのは、使えなかったと見るべきかな?」
「そうだと思います。蛇の感覚器官を狂わせるだけなら火攻めでも構わない。そんな安易な考えはしなかったでしょうね。
そもそも、当時の魔法使いは今よりも貴重だったようです。今でも、魔法使いの数は足りていないとされていますけどね」
「あとは、山に陣取ったって事で、水攻めの方が有効と思うんだけど、夏鈴はどう思う?」
「水……海水の方が良いかも知れませんね。ほら、海は生者と死者の国を隔てる境界線とも言いますし、幽暗というのであれば、効果があるかもしれません」
「んー? それだと、海の向こうから来たって話がおかしくなりそうだけど? それと、生者と死者を隔てるのは……ああ、地下を嫌ったっていう可能性はあるかも。落とし穴とか、面白そうだ」
「そう言えば、黄泉比良坂は地下世界でしたか?」
「正しくは、黄泉比良坂はその入り口だよ。死者の住まう地下世界、根の国と現世を隔てる場所になるのかな。黄泉比良坂は本土の方にあるよ」
何らかの条件を整える事で、幽暗の大蛇の無敵モードを解除できるのではないかと思う。
もしくは有効な攻撃があるのではないかな。
相手が一方的に攻撃できて、こちらの攻撃が通用しないというのは、どう考えてもおかしいからね。
俺と夏鈴は、当時の人達が試していない方法を思い付くまま話し合う。
ブレインストーミング、相手の意見を否定しないやり方ではないけど、とにかく意見を多数出していく。
時々話が逸れるのはご愛敬、という事で。
俺と夏鈴の共通見解として、幽暗の大蛇は、アンデッド、幽霊、それに類する物ではないかと推測している。
大蛇とは昼間に戦ったという話もある。昼間に幽霊と言われれば首をかしげる人も多いが、それ自体は、実は不思議でもなんでもない。幽霊が昼間を嫌うというのは西洋的な発想であり、古来日本の幽霊は、夜以外でも出没していたりするのだから。
そうなると聖属性とか浄化属性とか、アンデッドに効きそうな攻撃手段が欲しくなるけど。そういった攻撃手段は手持ちに無い。
そもそもアンデッド自体、これまで一度も見ていないのだ。
アンデッドを成仏させる攻撃手段と言われても、思い付く物ではない。
一番有効そうなのは、吸魔晶石だろうか。
アンデッドが魔法生物の一種とすれば、吸魔晶石で大ダメージを期待できる。
吸魔晶石由来であるカーバンクルの能力も有効だろう。
まだ推論でしかないけどね。
敵の防御対策については実際に試すしかないし、いつか実行するという考えを持ち、色々と手順を考えておこう。