21-8 調書②
「物理、魔法のどちらにも強力な耐性があるのか」
「物理に関しては無効化のようですね」
「矢ががすり抜けたって記述か。喰った奴の身体に刺さっていたとか、このご都合主義はどうなってるんだよって言いたいな」
「中には持った武器が身体をすり抜けていたのに傷を与えなかった、という話もありますね」
大蛇の能力は、調べれば調べるほど、挑むのがアホらしくなるような話であった。
件の大蛇がやってきたのは、今から150年前の事。
海の向こうからやって来たとしか分からない。
すでに中国や韓国、北朝鮮は崩壊していたので、それ以前の記録は追えない。
その他のアンカマーと同じく、出雲の国は精鋭で迎え撃ったが、封印までに1万人近い被害を出したとされている。
体長は30~40mぐらい、太さは直径2m。馬鹿でかいが、蛇の見た目で間違いない。
体色は緑暗色で、黒のまだら模様と額の黒い石が特徴的だったという。
額の石は10cmぐらいの大きさだったと言うが、妙に印象的だったと、当時の生き残りのコメントが残っていた。
基本的な攻撃手段は呑み込み。長い槍を持った大人でも丸呑みされたという。
あとは身体を捻った時に弾き飛ばされたという記述があったが、逆に身体がすり抜けて、何の被害もなかったという報告もあった。
これを書いた人は、中に人が飲み込まれている時に、その中の人がぶつかったのではないかと推測していた。
この大蛇の厄介な能力は、謎の無敵モード。
攻撃を仕掛けても効いた様子が一切なく、基本的にすり抜けるのだという。
これは武器や魔法による攻撃を問わず、こちらからの攻撃全てが無駄だったと書いてあった。
人を飲み込んだあと、おそらくその体内に人がいる時に、身体の外から飲まれた人への攻撃が通るので、本当に打つ手が無かったようだ。
これで人を飲み込んでいる時だけは攻撃が通るとかであればなんとかなったんだろうけどね……。
こんなの、どうしろと言うんだろう?
汚いのか汚くないのかよく分からない話だが、こいつは糞をしない。喰われた人間は完全に消滅するらしい。
武器や防具も、まとめて消化されるらしいね。呑み込まれれば遺品一つ残らないという。
そんなどうしようも無い相手に出雲の国が取った手段が、生け贄ベースの封印術式。
どうしてそんな術式があったのかは不明だが、その出所不明の術式を使ったのが、カードテキストで名前の判明した「雄総潤一郎」なのだという。
彼が英雄的思考により、自分を犠牲にして大蛇を封印したのだ。
その跡地は神社になり、英雄と荒神を祀る雄総神社として、ここ隠岐の島に今でも残っている。
なお、調書の原本・写本が保管されているのはこの雄総神社である。
雄総氏の子孫が代々神主を務め、当時の記録を管理している。
封印術式もしっかりと記述が残っているが、生け贄ベースという事で、今のところ、俺は使う気など無い。使わせる気も無い。
だが、神主の彼らは、いざという時にこの封印術式を使って大蛇を封印する事になっている。
本人らは、封印が解かれる事などないだろうと高を括っており、そういった役目がある事は分かっているが、実感はしていない模様。
なお、彼らが人間なのは確認済み。
役に立つかどうかは知らないけどね。
英雄の子孫でも、英雄本人じゃないし。英雄の力を受け継いでいるかも分からないし。
今回の調査で分かった事、分からない事は数多く、一回情報の整理が必要かな。